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□Good Night
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見つめ合ったまま、どれくらい時間が過ぎたのだろう。

「……同情ねえ」

ぼそりと呟いて高尾が笑った。

「高尾くんに誘われたとき、私は断らなかった。君の顔を見たら、断れなかった」

リコはそこまで言って、一歩部屋の中へ進んでいく。

「ありがとう」
「……は?」
「私のこと、ずっと好きでいてくれたんでしょ?ありがとう。でも、ごめんなさい。私は緑間くんが好きだから」
「……なにそれ、ずいぶんきついこと言うね」

ははっと笑ってみるものの、上手く笑えなくて前髪をくしゃりと掴んだ。

「だから言いましたよね?真ちゃんより気持ちよかったら俺と付き合ってくださいって」
「ええ。でも、もう結果は目に見えてるから」
「……ふーん、ずいぶん俺のこと見縊ってるんすね」
「そうじゃないわ。そういう行為って、好きな人とすることに意味があると思うの。相手が下手だから、上手だから――それで相手を好きになる、嫌いになるとは限らないでしょ?」
「だからカントクさんはわかってないんだって」

呆れたような高尾の口調に、リコの眉間に皺が寄る。

「……何が?」
「一人の男しか知らないからそーいう綺麗事が言えるわけ」
「私は緑間くんのことだけ知っていれば、それで十分よ」

へえ、と彼の口の端が上がった。首を横に傾けて、目を細める。そんな彼を見た瞬間、リコはぞくりと寒気を感じた。

「これからセックスする男が目の前にいるっていうのに、よくもまあそんなことが言えるっすね」
「……高尾くん」

彼がゆっくりと近付いてくる。自分の元へ手が伸びてきて、思わず目を瞑った。
次の瞬間、ふわりと何かに包み込まれたかのような温もりを感じた。驚いて、目を見開く。
背中に回された腕。肩のすぐ傍に、彼の顔がある。動けなくて、その場に硬直した。

「……俺が、可哀想って思ったから、ついて来たんですか?」
「そう、いうことになるわね……」
「無理矢理されるとか、考えてなかったんすか?」
「……思わなかったわけじゃないけど……ラブホに来るとは思わなかったわ」
「え、そっち?」
「……初めて、だし……」
「……はーなんかダメだわ。カントクさんと話してると話がずれてくる」

ああもう、と高尾はリコを抱きしめる。緑間ではない、他の男の温もりに戸惑う。

「正直、俺が可哀想だからって理由でセックスするとか、あんまり言ってほしくないんすけど」
「……迷惑なのよ。私には、緑間くんがいるし。これで高尾くんの気が済むなら、私はそれでいいわよ」
「……迷惑、ねえ」
「それに、ここから出してくれるつもりなんてないんでしょう?」

リコの言葉に、高尾は顔を上げた。どきりと心臓が跳ね上がる。
彼の髪の色。瞳の色。こんなにも彼をまっすぐ見つめたことがあっただろうか。

「だからやめません、って何度も言ってますし、誘いに乗ったのはそっちでしょ?」

ぐいっと腕を引かれたかと思えば、両手首を掴まれたまま、彼の体が覆いかぶさってくる。バランスを崩して後ろへよろめく。踏みとどまろうとするも、彼がそれを拒んだ。
きゃっ、と小さく叫び声を上げたときには、リコの体はベッドへと押し倒されていた。

「真ちゃんとどんな風にヤッたんですか?」
「やっ……!ちょっと待って、」
「ずっと、貴方に触れたいって思ってました」

先ほどよりも大きく心臓が跳ね上がった。
自分の真上で馬乗りになっている高尾は、愛しそうにリコを見下ろしている。
顔を寄せられ、反射的に顔を逸らしてしまう。

「リコさん、」
「っ!?」

首筋に舌を這わされた。ぬるりとした感触にリコの体が震える。
声を堪えるように唇を噛み締めていると、高尾の指先が彼女の唇を撫でた。

「声、聞きたい」

促してみても彼女は首を横に振る。目尻に溜まっている涙にそそられるのを、本人は気付いていないのだろうか。
高尾はリコの首に深く顔を埋め、わざとらしく音を立てて舌を這わせた。

「ひゃあっ!」

リコの口から漏れた甘い声に、高尾は全身が粟立つのを感じた。もっともっと、と首筋を舐め上げる。

「ひゃ、あっ……!たか、おくんっ!」

目に涙を溜め、顔を赤らめながら自分の名前をリコに呼ばれる。それは想像以上に興奮するものだった。
高尾が女と行為をするのは、これが初めてではない。何人かの女とそれなりの行為の回数は重ねてきた。でも、付き合っているわけではなかった。
言うなれば、リコの代わり、である。今まで行為をしてきた女はどこかリコに似ていた気がした。無意識にリコの面影を探して、リコを求めて彼女に似た女を選んでいたのかもしれない。
何度も彼女を抱くイメージをしてきたのに、いざ本人に触れてしまうと、その熱量と興奮に自分はこれほどまでに彼女に溺れていたのだと実感する。
制服だったら脱がしやすいのに、なんて思いながら彼女の服を捲り上げ、露わになった彼女の白い肌を凝視した。
小振りな胸を覆う下着をずらそうとすれば、彼女が身じろぐ。

「や、だっ、見ないで……」
「触りたい。触ってもいい?」

わざと彼女に聞いて、彼女の羞恥心を煽る。
下着を外そうと背中に手を回そうとしたとき、リコは高尾の体を押し返した。

「やっ、緑間くん……!」

無意識に口から出た緑間の名前。リコははっとし、慌てて高尾を押し返す力を弱めた。

「ご、ごめん……」
「謝られると余計にきついんだけど?」

リコが怯んだ隙に、下着のホックを外す。
抵抗するリコの腕を押さえつけながら下着を取り除いてしまえば、彼女は胸を隠すように体を横向きにした。

「別にいいっすよ。真ちゃんの名前を呼んだって」

リコの耳元に唇を寄せ、低い声で囁く。

「これから俺の名前しか言えないようにしてあげるんで」

かぷりと耳を甘噛みすれば、リコはぎゅっと目を閉ざした。
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