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□溺れてしまえ
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正直、夕食の味なんて覚えていなかった。
終始ぼんやりとしていたからか、部員に心配されることがしばしばあった。なんせ泣いているところを見られてしまった後だ。余計に彼らを心配させてしまう。
何もないわよ、大丈夫――そんな言葉を繰り返すリコであったが、実際は彼らに何て声をかけられているのか頭に入らないほど、上の空だった。
頭を過ってしまうのは、宮地のことである。

(……行かなきゃ、ダメよね)

全学校合同のミーティングが終わり、各校のミーティングも終わった。残すは、宮地との約束である。
自分を心配する部員を宥め、ようやく外に出れたのはミーティングが終わってから少し時間が経ってしまったころだった。
秀徳もミーティングが終わっただろうか。宮地はもういるのだろうか。
約束の場所へ向かうにつれ、徐々に速くなっていく心臓の鼓動。
告白の返事は考えていなかった。
今はバスケのことしか考えたくなかったし、宮地が嫌いなわけでもない。いきなりキスされたときはさすがのリコもショックを受けたが、彼の優しさもバスケへの情熱も人並みに知っている。そんな彼だからこそ、しっかりと返事をしたいと思うのだ。

(返事……まだ決めてないけど、)

生半可な答えはしたくない。
ぎゅっと唇を噛み締めたとき、視界の先に宮地の姿が見えてきた。
大きく跳ね上がる鼓動。

「――みや、」

彼の名前を最後まで呼び終える前に、言葉は閉ざされた。
圧迫される口元。背後から覆いかぶさる何か。体はそのまま横へ倒れ、茂みの中へと体が沈み込んでしまった。
衝撃はあまりなかった。覆いかぶさってきた何かがリコを支えていたからだ。
口を覆う大きな手の平に恐怖を覚える。後ろを振り向こうとしても身動き一つできないほどに体を固定されていた。
視線を下に向ければ、誰かの足が見える。声を上げようにも口を覆われていたら出る声も出ない。
状況を掴めないまま、恐怖だけが湧き上がってくる。
それでもこの状況はなんとかしなければならない。抵抗しようと力を込めてみるが、やはり身動きはできなかった。
声を出せば宮地に気が付いてもらえるかもしれない。すぐそこに、宮地がいるのだ。

(助けて宮地さん……!)

「――そんなに怯えなくて大丈夫だよ」

耳を擦る低音の声。ぞくりと鳥肌が立った。
体は覚えていた。今も耳に残る、彼の声。
強張っていたリコの体から力が抜けていくのがわかると、口元を覆っていた手の力が微かに緩んだ。
指の隙間から、驚きを隠せないリコの声が零れる。

「諏、佐……さん?」

名前を呼べば、リコの体を包み込んでいた腕が離れた。目を見開いて、わなわなと唇を震わせながら顔を後ろへと向ければ、そこには彼女が口にした名前の、諏佐がいたのだ。
諏佐さん、ともう一度名前を呟けば、彼はにこりと微笑んでみせる。

「相田さん、体が震えてるよ?」

諏佐にもたれかかるように、彼の足の間に座り込んでいるリコは、彼の言うとおり、微かにだが体を震わしていた。
それは一種の恐怖だった。
彼にキスされたことを忘れていたわけではなかった。忘れるはずがなかった。
しかし、今はそんなことよりも、自分が置かれているこの状況を理解することに頭がいっぱいだった。
状況を整理するのは簡単だった。後ろから来た諏佐に茂みの中へ押し倒される……穏やかな話ではないだろう。すぐさまリコの脳内に危険信号が発令される。それと同時に思い出されるのは、彼に押しつけられた唇の感触だった。
リコは諏佐の方へ向き直り、彼の体を離すように胸元を強く押し返して立ち上がろうとした。
が、諏佐がリコの背中に腕を回したことによって呆気なく制されてしまう。
先ほどよりも強く、諏佐の方へと引き寄せられ、リコは彼の胸元に顔を埋めてしまう体勢になってしまった。

「ちょっ……!諏佐さんっ」
「相田さん、そんなに大きな声を出したら宮地に聞こえちゃうよ?」

優しく宥めるような口調なのに、背筋がぞくりとした。
はっとしたように顔を上げて、目の先に見える宮地を捉える。幸い、宮地はこの茂みの中にリコと諏佐がいることに気が付いていなく、空を見上げたり、時折辺りをそわそわと見渡してリコがやってくるのを待っているようだった。
その様子に胸が痛んだ。行かなければ。彼の元へ行って、彼の気持ちに返事をしなければ。

「やっ、諏佐さんっ……!」
「俺より、宮地とのキスの方がよかった?」

リコは顔が熱くなっていくのを感じた。怒りなのか、恥ずかしさからなのか。ただ、諏佐のその言葉にいい思いなんてしなかったのは事実だ。
思わず声を荒げてしまいそうになるものの、この姿を、この状況を宮地に見られてしまうのは勇気がいることだった。事情を説明すればわかってくれるかもしれないが、果たしてそう上手くいくだろうか。
夜の人目がつかない茂みの中で、男と女が抱き合っているというこの状況は(諏佐の一方的ではあるが)誤解を解くには時間がかかりそうだ。

「ふ、ふざけるのもいい加減にっ……!?」

突然、リコは声にならない叫び声を上げた。
太腿を撫でられる感触。諏佐は笑みを浮かべていた。
彼の大きな手の平が、ショートパンツから覗かせるリコの太腿をゆっくりと下から上へと撫で上げていく。
ばくばくと異様な鼓動が鳴り響きだした。やめて、やめて、と言いたげな唇を、空いている彼の手の先がなぞる。
場違いな優しい手つきで太腿を撫でていた手が、次第にある一ヶ所へ向かっていくのがわかった。リコの瞳に涙が滲む。
やめて、と言葉を放った瞬間、彼の指先がリコの大事な部分に触れた。

「――!?」
「相田さん可愛い。声、我慢できるよね?俺も、変な噂流されたくないし」

にこりと満面な笑みで自分を見下ろす諏佐に、だったらこんなことするな、と怒声を発したくて仕方がなかった。それができないのは、彼が言った通り、大きな声を出せば宮地に気付かれてしまうからだ。
リコが宮地に助けを求めたくても求められずにいることなんて、彼にはきっとお見通しなのだろう。不敵に笑う彼と目が合ったその瞬間に、リコは察していた。
諏佐は、この状況を楽しんでいるのだ、と。

「んっ……!あっ……」

諏佐の手が服の中に入り込んでしまえば、完全に主導権は諏佐に握られた。
下着越しに撫でていた指が、隙間から滑り込んでふにふにと柔らかな秘部を堪能しはじめる。
陰毛に触れられ、リコは羞恥で顔を真っ赤に染め上げた。諏佐の指の動きは止まることなく、ぷっくりと膨れてきたクリトリスを弄り、そのまま指を下げた。
男の欲望を掻き立てる結合部分に指を当てるだけでくちゅくちゅと卑猥な水音が夜の静けさの中へ響いていく。

「やっ、だっ……!諏佐さん、やめてくださ……!」
「宮地に気付かれるよ?」

諏佐の指の動きに嫌々と首を振る。そのたびに諏佐は満足そうに笑った。
ぐちゅりと水音が大きくなる。

「やだなあ相田さん。もしかしてこの状況で興奮してるの?」
「ちっ……がっう……ああっ……!」

諏佐の指がまたしてもクリトリスへ向かう。上下に弄ればリコは一際高い声を上げて諏佐の首にしがみついた。
今まで味わったことのない感覚が体中に駆け巡っていく。あっあっあっ、と抑えようとしても出てしまう甘い喘ぎ声は諏佐をそそらせた。
ぴくぴくと震えるしこりを擦りながら、もう片方の手で彼女のシャツを捲り上げ、小振りな胸を覆う下着に歯を立ててみせる。

「やあっ……!」
「すごい濡れてる。ねえ、もっと興奮することしようか?」

諏佐の口元が吊り上がった。
抵抗することなどできず、ただ彼の手から与えられる快感に身を委ねる。これがいけないことだとわかっていても、体が反応してしまうのだ。

「ああああっ……そこ、だめえ……」

がくがくと震える足ではもう自分で立つことすらできなかった。諏佐の方へ、その身を捧げることしかできない。
諏佐は下着をずらし、ぴんと立った乳首を舌で絡ませるように這わせた。

「んっ、あっ、あっ……」

甘噛みをすれば、リコはぎゅっと目を閉じてしまう。声を押し殺そうと、諏佐の肩に顔を押しつけると、彼女の耳元へ唇を寄せた。

「相田さん」

彼の吐息に思わず顔を上げてしまった。そんな彼女の反応に頬を上気させながら、諏佐は優しくささやいた。

「宮地に気付かせてみる?」
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