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□くるくるまわる、きらきらひかる
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なんて、彼女が家に来るというイベントを聞いた瞬間に脳内ピンク色の展開が繰り広げられてしまうのは思春期真っ只中の男子高校生ならば仕方のないことである。
とはいえ、リコ自身はそんなつもりで家に行きたいと言ったわけではないことぐらい、大坪にはちゃんとわかっていた。
何事にも鋭く、巧みな采配をする彼女だが、どうやら恋愛という部類には疎いらしく、それなりに交わしてきたキスでさえ、いつになっても初めてのキスのように顔を赤く染め上げる。それは決して悪いことではない。むしろ、いつになっても自分に対して変わらない気持ちでいてくれるのは非常に嬉しいことだ。
だからだろうか。もっと先に進みたいと思う反面、今の現状に満足してしまっている自分がいるのは。





最寄り駅の目の前は多くの人が行き交っていた。
大坪はその人波の中から愛しい彼女の姿を探し続けている。腕時計に目をやれば、彼女が言っていた到着時刻になっていた。おそらくもうすぐ来るのだろう、と顔を上げた直後のことだった。
改札を通り抜けてくる一人の女性が、淡いオレンジ色のワンピースの裾を揺らして自分の方へ向かってくるのが見えた。一目見た瞬間、自然と笑みが零れていくのを感じた。
人と人の間を器用にすり抜けてきた彼女は、大坪の視界に自分が入り込んだことに気が付くと、一礼をしてから彼の目の前へやってきた。

「すみません、お待たせしちゃいました!」
「いいや全然」

首を横に振ると、リコの口元が和らぐ。お久しぶりですね、と彼女が笑った。何ヵ月か振りに見れた彼女の笑顔は大坪の思考を一瞬にして支配する。伝えたいことはたくさんあるのに、口から出てきたのは、そうだな、なんてありきたりな台詞。思わず苦笑してしまう。
どうかしましたか?とリコが顔を覗き込んでくるものだから、結局何をしても口元が緩んでしまうのだ。

「……会えて嬉しいんだよ」

ぼそりと呟いて、彼女の手を掴む。反応なんて待たずに彼女の手を引いて歩き出せば、くすくすと笑い声が聞こえてきた。

「私も、嬉しいですよ」

横目で彼女を見やれば、後ろを歩く彼女は柔らかな表情で微笑んでいた。
視線を逸らして、前を向く。
やはり自分は、おう、なんてありきたりな台詞しか言えなくて、繋いだままの彼女の手を包み込むように握り締めた。





忠告していた通り、家には親が不在で、ドアを開けた瞬間の静けさは大坪をより緊張させた。

「……お邪魔します」

変な緊張がリコにも伝わったのか、きょろきょろと辺りを見渡しながら玄関先に入った彼女はいつになく落ち着きがない。
そんな彼女の様子に気が付けば、自分の緊張が少しずつ和らいでいくのを感じる。単純だなあ、と自分自身にツッコミを入れ、大坪は靴を脱いで家の中へ上がった。

「親いないからそんな緊張しなくて大丈夫だよ。俺の部屋、二階だから」
「は、はい」

困惑気味のリコに、ん、と手を差しだせば、リコはその手の平を見つめてはふわりと笑う。

「……なんだか今日は積極的ですね」
「それはほっといてくれ」

リコが手の平を重ねた。ふふ、と楽しそうに笑う彼女の笑顔は、やはり心臓に悪い。
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