TALES OF CRIMSON ー本編ー

□第3章 疾風の如く
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 蜘蛛たちは二人を逃がさぬよう、素早く後ろに回り込み、あっという間に取り囲んでしまった。
 村へと続く道もしっかりと塞がれてしまい、これではもう逃げる事すら出来ない。


「な、何でこんな時に…」

「…俺の血の匂いに引き寄せられたんだろう。…どうやら、久々の獲物だったらしいな。こいつら、相当殺気立っている。」

 少年は小さく舌打ちし、大蜘蛛たちの動きを目で追いながらエルにそう言った。

 彼の言う通り、確かにこの魔物たちはかなり腹を空かせているようだ。
 上下の牙をカチカチと鳴らし、それが不気味な笑い声を上げているように聞こえてくる。

 つい、自分が食べられてしまう様を想像したエルは、怖くなって足が竦(すく)んで動けなくなってしまった。


(ど、どうしよう…あんな大きな魔物、あたしじゃ絶対に倒せないよ。でも…これじゃ逃げられないし、どうしたら…!!)

 生まれて初めて"絶体絶命"の危機に身を晒(さら)され、エルはパニック状態に陥りそうになっていた。
 不安と恐怖でがたがたと体が震え、心臓の鼓動が自分でも感じ取れる程まで高鳴っている。
 

「………。」

 一方、少年は相変わらず無表情のままで、この場をどう切り抜けたらいいのか冷静に思考を巡らせていた。
 人食い蜘蛛に囲まれるという状況であるにも係わらず、その顔には全く焦りを窺わせない。

 そして、しばし何か考えに耽(ふ)けた後、不意に顔を上げてエルの方に向き直った。


 
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