TALES OF CRIMSON ー本編ー
□第4章 『Who I am?』
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『―――、―』
声が、聞こえる…。
『―、―き…―』
…よく聞こえない。
何と、言っているんだろうか。
『―なさ…、――ス…』
? …名前を、俺の名前を呼んでいる…?
一度だけじゃない。
何度も、何度も。
だけど…―
『―ス、お…―』
誰の、声なんだろうか。
聞いた事はある気がするのだけど、思い出せない。
とても懐かしい声なのに…。
…もっと、よく聞きたい。
今度こそ何と言っているか聞き取ろうと、もう一度、耳を澄ましてみた。
『…起き…さい、――ス、―』
? 起きろ…?
その言葉で、ようやく自分が目を閉じていた事に気付いた。
しかし、目を開けても辺りは深い闇に包まれていて。
真っ暗闇な空間に、独り、取り残されていた事にも気付いた。
上下左右、どこを見回しても、闇、闇、闇…―
何も見えない。
何も、
『―大丈夫、…闇の中にいるからこそ、光を見つけられるから。』
………え?
『…あなたの中の光を、信じて。』
それは、先程からの声だった。
今まで朧(おぼろ)げにしか聞こえなかった声が、今回一番はっきりと耳に届いた。
『――ス、わた……は、…つも、あな…の側、に―………』
しかし、すぐにその声は微かなものとなってしまい、とうとう全く聞こえなくなってしまった。
…結局、あの声は誰のものだったんだろうか。
思い出そうとするが、ぼやけた面影が脳裏に浮かんだだけで、誰とまでは分からなかった。
すると、
不意に、上から光が差し込んできて、闇に閉ざされた自分を照らし出した。
その眩しさに、思わず目を眇め、手で目を庇いながら光の方を見上げる。
―…光は、遥か遠くから入ってきているようで、自分の目ではとても小さく見えた。
手を伸ばしても全く届く気がない。
まるで、地上から見る星のように思えた。
だけど…光は確かに、ここまで届いている。
自分が思う程、遠くにある訳ではないんだ、きっと。
だから、出来る限り手を伸ばし、少しでもその光に近付こうと、もがいた。
すると、光は大きく見え始め、徐々に周囲が明るくなっていく。
あれだけ遠くにあったはずなのに、どうしてこんなに早く…―?
そこでようやく、気付いた。
自分が光に向かっているだけでなく、光もまた自分の方に向かって下りてきていたのだ。
そして、あれ程遠くにあると思っていた光に辿り着き、ついにそれを力強く掴み取った。
その瞬間、手の平の中の光はさらに輝きを増し、視界と意識が白一色に塗り潰された…―。