TALES OF CRIMSON ー本編ー
□序章 始まりの前夜
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―…樹木が生い茂る暗闇の中。
月明かりだけが、僅かに一帯を淡く照らしていた。
その木々の間をすり抜けるようにして、二つの影が樹海の中を疾風の如く駆け抜けてゆく。
彼らはフードの付いたローブを纏っており、その容姿を確認する事は出来ない。
しかし、体格からしてどちらも男であるようであった。
そして、そんな彼らの後ろを武装した黒づくめの集団が追い掛けてくる。
―…数は優に百を超えていた。
その光景は、まるで黒い波が二人を飲み込もうと襲い掛かっているかのようにも見えた。
「くっ…まだ追ってくるか!」
二人のうち、先頭を走る背丈の高い方の男が走りながらも苛立だしげにそう吐き捨てる。
後ろを振り返らずとも、背中に浴びせられる殺気の渦が未だ"奴ら"を振り切れていない事を物語っていた。
―…既に、数十という数の敵は斬って捨てた。
それでも、倒しても倒しても沸いて出る敵に、二人は満身創痍になりながらも、何とかここまで退路を切り開いたのだ。
しかし、もはや奴らを振り切る事は不可能だろう。敵が余りにも多過ぎる。
かと言って、全ての敵を倒すのは更に無理な話だ。二人とも、体力も魔力もほとんど残っていない。