TALES OF CRIMSON ー本編ー
□序章 始まりの前夜
2ページ/21ページ
何にせよ、もう道は絶たれてしまっている。自分たちが捕まるのも時間の問題だった。
後ろを走っていた先頭の男より小柄な"彼"は、終始無言のまま男の後ろを付いていた。
しかし、逃げ切れない事を既に悟っていた彼は、先頭の男に大人しく捕まる事を提言しようと初めて口を開いた。
―…自分の事で誰かが傷付いたり犠牲になったりするのは、彼はもう、嫌だったのだ。
「…アルヴァス、もう…―」
だが、彼は一旦そこで言葉を止めた。
真上から自分に向けて急降下してくる殺気の塊を、瞬間的に感じ取ったからだ。
反射的に持っていた片刃の長刀を勢いよく上方に振り上げ、彼はその奇襲攻撃を受け止める。
蒼い火花が目の前で散り、その衝撃でフードが外れて彼の素顔が明らかになった。
―…そこにいたのは、一人の少年であった。
いや、少年というには成長しており、青年というにはまだ幼い。ちょうどその境目にいるような顔立ちといったところか。
何といっても目を引いたのは、彼の瞳の色であった。燃え盛る炎のように、彼のそれは見事なまでの真紅色をしていたのだ。
その紅い瞳を不快そうに細め、彼は凶刃を受け止めながら相手を鋭く睨んだ。
対して、攻撃を加えた男は、嬉々として歯を剥いて笑い、楽しげに彼を見て咆哮した。