小説部屋

□鏡同士のワルツ
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あなたと私。
二人は同じ。
あなたがいれば、私がいて。
私がいれば、あなたがいる。
だから、私にはあなたが必要。
あなたには私が必要。
……本当に?
本当に必要?
私とあなたは同じはずなのに。
あなたの考えがわからない。
私はあなたが知りたい。
だから私は――あなたになりたい。




二学期の始め。
九月の一日。
それは学生に取って憂鬱な日。
もちろん、それは一之瀬 晃に取っても同じことである。
「あーあちぃ……」
Yシャツを第二ボタンまで開けてだらしなく歩く。
かたっくるしい制服がめんどい。
宿題が入った重い鞄がめんどい。
家から学校までの道のりがめんどい。
そもそも、前日からめんどくさかった。
夏休みは遊んで遊んで遊びまくったおかげで気が付けば宿題は溜まりに溜まっていた。
そんな事実に気付いたのが三日前。
そして、それに大慌てで取り組み始めて昨日、正確には今日の朝。ぎりぎりで終わらせたのだった。
「……日記があったら完全に間に合わなかったな」
小学生の頃はいつも日記で苦労していた事を思い出す。
それに比べれば今の宿題はただ量が多いだけ。
コツコツと努力なんかしなくてもある程度はなんとかなるもんだ。
「……だからこそ、学習しないんだろうけどな」
冬休みも同じ目に合うんだろうと思うと若干気が滅入る。
気が滅入るくらいならやればいいのだが、それとこれとは話が別だ。
だいたい、そんなことで行動出来るくらいなら最初からやっているのだ。
何年もやってきた、このスタイルを今さら変えるつもりはなかった。
まぁ、だから今、こんなに疲れている訳で。
徹夜明けの登校とかホント辛いわ……。
やっぱり、今度はちゃんと勉強しよ。
そんなことを思っていると前に見知った顔が歩いていることに気が付いた。
ロングの薄い
何かを持っているかのように若干前かがみな姿勢。
後ろからでもその様子は窺えた。
一か月半経ってもやはり変化はないらしい。
一之瀬はそんな事を考えながら後ろから彼女に声を掛けた。
「よっ!」
「……っ!?」
一之瀬の手が女子高生――前川 由希乃の肩に触れた、瞬間に猫のように飛びずさる。
その腕に鏡を抱きながら。
「そ、そんなに驚かなくてもいいだろうに……」
「……」
「そんなことより、夏休みどっか行った?俺なんか全然行けなくてさぁ」
「……」
一之瀬の話に由希乃は無言を貫く。
視線も向けず、会話もせず、ただ前を向いて歩いているだけだった。


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