小説部屋

□クリスマスの奇跡
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しんしんと雪が降る夜。クリスマスイヴ。それは家族と過ごす日。もしくは大切なカップルと過ごす日。とにかく幸せな日なのだ。

……一部の人間にとっては

光があれば影がある。もちろん幸せな人がいれば不幸な人がいるものだ。
「ちくしょう!なんでこんな忙しいんだよ……」
俺はどちらかだって?そんなの不幸に決まってんだろ!てか、今日がクリスマスのせいでお客が入って入って止まりゃしない。
「いらっしゃいませ〜ポイントカードは――」
さっきからこれの繰り返しだよ!ホントなら家に着いてテレビでも見てる時間だっていうのに!このリア充共が!!さっきから男女のカップルばっかじゃねぇか!これから家に帰って「性なる夜」ですか!?ああ、腹立つ!!
それでも笑顔は崩さない。俺は仕事に私情は挟まないんだ。……ぁ、ちょっぴり受け取る商品に力がこもっている気がしなくもないが気のせいだろう。
「ありがとうございました〜」
形だけでも挨拶は忘れない。本音を言えば彼氏の後頭部に卵でもぶつけてやりたいところだけどな。
「そろそろお客さんも減ってきたし、もうあがっていいよ」
「はい、お疲れ様っした〜」
やっと帰れる。さっさと帰って今日と言う日を終わらせてしまいたい。俺は私服に着替え、バイト先のユニフォームをロッカーに押し込んだ。
「それじゃ、お疲れさまでした〜」
「はいはい、せっかくの聖夜なんだから大事に過ごしなね」
余計なお世話だ!てか、あと一時間もしたら聖夜終わるじゃねぇか!!……ん?クリスマス・イヴってことは聖夜ってのは明日の事なのか?
「ま、いっか。俺には関係ないし」
店長に適当な挨拶を済ませてバイト先のコンビニを後にした。


「寒い……」
雪が降っているから当たり前ではあるのだが。傘を取り出して自宅へ急ぐ。途中、飯でも買ってこうと思ったが、どの店に行ってもリア充しかいなかったので止めた。そんな中に一人で入って寂しい思いをする必要もないだろう。
そんな訳で歩くスピードを早める。ここに一秒もいるよりかは早く帰って暖房に当たりたい。そして、さっさと寝てしまいたい。仕事疲れと非リア充の苦しみで体力的にも精神的にも限界が近付いている。


とか、考えてる間に家に辿り着いたらしい。らしい、と言うのは俺がリア充見たく無さに下を向いて歩いていたからだ。
顔を上げて確認した後、ポケットから鍵を探してドアを開ける。
「寒い……」
コンビニを出た時と同じ言葉を吐き出す。長い間、留守にしていたせいで部屋全体も完全に冷え切ってしまっている。
「とりあえず、電気と暖房っと」
付いた。これで少しはマシになる。
なんてたって1Kのボロ家だからな。すぐに暖まるだろう。
さてと、もう特にすることもないし寝るか。明日も特に予定はないが、明日のことは明日考えよう。……どうせ、無駄に潰れるんだろうけどな。
とりあえず、眠い。ベッドの中に入ろう。


むぎゅ。


「ん?」
ベッドの中に何かある?なんか生暖かい。確認のために手を突っ込んで確認する。
「きゃん♪」
…………は?
「誰かいんのか!?」
布団を引っぺがす。その中に居たのは……。
「メリークリスマス♪」
サンタが居た。……いや、サンタのコスプレを着た女の子がいた。サンタのコスプレを着た女の子が布団の中で笑顔を浮かべている。
「貴方の願い、叶えますよ!」
「帰れ」
ベッドから蹴り落とす。
「いった〜い……」
とりあえず、電話だ電話。警察に保護して貰わんと。
「ちょ、ちょっと待って!」
慌てて俺から電話を奪い取る。
「おいこら返せ!!」
「返したら警察に電話するじゃないですか!」
「当たり前だろうが!!」
これは立派な犯罪であって俺には警察に電話する義務があるはずだ。
「ふふん♪いいんですか?警察呼んだら喚きますよ?この人に無理矢理連れて来られたって。果たして、どちらの言うことを聞きますかねぇ」
「いや、俺だろ」
だいたい、「貴方の願い、叶えます♪」とか言ってる電波女の言うことを聞く訳がない。それに警察呼ぶの俺だし。……ってか、犯人はわざわざ警察に電話なんかしないだろ。
「く……策士ですね」
どこがだ。
「……てか、なんでここに居るんだよ」
携帯電話をポケットにしまう。なんか、特に害とか無さそうだし。いや、余り騒がれると害なんだけどさ。何も盗んでないっぽいし別にいいかな。
「だから、貴方の願いを叶える為にですね」
「あ、もしもし。警察の――」
「話を聞いて下さいぃぃぃぃぃぃっっ!!」
俺から携帯を奪う。
「これは没収です!」
「わかったわかった。ちゃんと話を聞いてやるから」
「ホントですか?」
「聞くだけは聞いてやる。ほら、早く話してみろ」
その話を信じるかは、また別の話だけどな。
「は、はい」
まさか、話を聞いてくれるとは思ってなかったのか、あたふたしながら説明を始めた。
「え、えーとですね。さっきも説明した通り私は貴方の願いを叶えに来ました。見て貰えればわかると思うんですけど一応サンタなんです」
……本当にサンタだったのか。
「ただ、まだ見習いでして今回テストと言うか研修と言いましょうか、とにかくそんな感じなんです」
どんな感じだ。まぁ、簡単な話がサンタになる為の試験の一環で俺の願いを叶えに来たってとこか。
「ところで、それって俺じゃないとダメなのか?」
「別にダメじゃないですよ?対象を選ぶのは自由ですから。ただ、条件がありまして」
「条件?」
「はい、とにかく不幸せそうな人を選べと」
「……俺はそんな不幸せそうに見えたか?」
「貴方が働いていた時も遠くから眺めていましたが、一番不幸そうな顔をしてました!」
笑顔で言うなよ……。
「とにかく、そういうことなんで願いを叶えさせてください」
「断る」
「えぇ!?なんでですか!願いを叶えて貰えるんですよ!?」
「そんな魔法使いみたいなことが出来る訳ないだろ」
「話を聞いたのに信じてなかったんですか!?」
「当たり前だ」
「……わかりました」
どうやら諦めてくれたようだ。
「だったら証拠を見せましょう!」
そっちかよ。
サンタ娘はさっき俺から取り上げた携帯電話を取り出す。
「どうすんだよ」
「こうします!」

バキッ!!

「おい!何やってんだ!!」
こいつ、俺の携帯電話を逆パカしやがった!なに考えてんだこいつ!!
「まぁまぁ、大丈夫ですって」
二つに折れた携帯電話を傍に置いていた白い袋に入れる。あの良くサンタが背負っている白い袋だと思うのだが見習いのせいなのか女性用なのかは知らないがサイズは小さい。トートバッグくらいの大きさだ。
「ここで魔法をかけると〜」
袋に向かって呪文のようなものを口ずさむ。
「そうすると〜はい!」
袋を逆さまにして縦に振ると逆パカされたはずの携帯電話が元に戻った状態でベッドに放り出された。
急いで中身を確認する。データも全部無事。長年使ってきた傷も全部そのままだった。
「これで信じてくれましたか?」
「信じたが心臓に悪いから止めてくれ……」
「じゃあ、次は貴方の願いを叶えますよ!」
「と、言ってもなぁ……」
特に叶えたい願いもないしなぁ。
「あるとしたら明日が暇な事くらいか」
まぁ、そこまで困ってはいないんだが。
「……ホントにそんなんでいいんですか?お金とか色々ありますけど」
「明日生きていける分のお金だけあれば満足だしな」
「なんていうか……つまんない人間ですね〜」
ほっとけ。
「っていうか、この願いっていつまで効果があるんだ?」
「クリスマス終わるまでですよ。私サンタだし」
「そりゃそうか。じゃ、明日の暇を潰してくれ。それで俺は満足だわ」
「せっかくのクリスマスなんだから友達と過ごせばいいじゃないですか」
「残念ながら全員彼女持ちでな」
「…………」
「そんな可哀想な目で見るんじゃねぇ!」
「え、そんな目で見てました?」
しらばっくれやがって。
「とにかく、そういう訳だから」
そう言ってベッドに寝転がる。
「寝るんですか?」
「当たり前だ」
「それじゃ、私もご一緒します♪」
「はぁっ!?」
俺の横に笑顔で寝転がる。
「お前、一緒に寝るつもりか!?」
「ダメですか?」
「いや、ダメでは無いが……」
なんかこう恥ずかしいような気まずいような。俺も男な訳だから――
「ダメじゃないならいいじゃないですか♪」
「……お前は気にしないのか?」
「何をですか?」
「ああ、なんでもないわ」
どうやら、恥ずかしがってた俺が馬鹿だったらしい。
「んじゃ、おやすみ」
「おやすみなさい」
こうしてクリスマスイヴの夜は過ぎていった。
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