小説部屋

□友達
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誰もいない一人の部屋。親は仕事。一人ぼっち。ベッドで膝を抱えてうずくまる。自分の匂いで少し安心。私は生きてる。うん、生きてる。
時計はお昼の13時を指してる。
学校、行かないと。
思いと行動の矛盾。考えてるだけで身体は動かない。多分、それは「行きたくない」と同じことなんだろうな。
別にいじめなんかされてない。教科書に落書きもされてない。
ただ、一言

「本当に勉強が駄目だな」

と、言われただけ

たったそれだけで心にあるなにかが壊れた。それから、何もしなくなった。いや、したくなくなった。そう、したくないんだ。
勉強がダメならそこに居る必要なんてない。だから行かない。それだけなんだ。どうせ、私は駄目な人だから。
椅子の上に投げられたセーラー服。あーあ、しわになっちゃうかな。でも、いいよね。どうせ行かないもん。だったらそのままでいいや。
鞄も教科書も全部そこらに置きっぱなし。どうせ、行かないからそのまま。こんなことをしていても誰も怒らない。そう、誰も怒らないんだ。
近くにあった教科書を投げる。壁に思い切り当たって静かな部屋に一瞬の騒音。

それだけ。

だって誰もいないし。何をしようが怒られないし叱られない。
自由だ。
学校も行かず部屋にこもって無駄な時間を過ごす。
これが自由。

自由?自由なの?本当に?

隠す。一瞬出た自分の本音を隠す。これが自由なの。自由なの。私は縛られないの。この部屋にいる間は自由。一人でいればいい。誰にも怒られないし誰も叱らない。これが自由なの。

誰にも褒められず。誰にも愛されないのに?

「うるさいな!!」
思わず叫ぶ。私の中の私に対して。私の邪魔をする私に対して。私の中の本音に対して。傷つきたくないから、叫んでかき消す。
これでいいんだよ。これが一番なの。どれだけ褒められようが、どれだけ愛されようが、最終的には裏切るんだ。だって、だってそういうことでしょ?怒らない、叱らないってそういうことなんでしょ?
いつの間にか居なくなっても誰も気にしない。私も気にしない。気にしてたら傷つく。友達なんかじゃない。知り合い。そう思ってるだけで楽になれるんだから。私は空気。ううん、空気よりいらない存在だよね。だって、空気は皆の役に立っているのに私は・・・・・・。
膝の上に枕を置いて顔をうずめる。

冷たい・・・・・・・・・。










「ん・・・・・・」
寝てた?いつの間にか横になって枕を抱きしめていた。
起き上がる。なんとなく目が痛い。腫れちゃったかな。

あれ?携帯が光ってる?
開く。そこには「新着Eメール 1件」と表示されていた。
メール?なんで?
開く。

件名:大丈夫?
本文:最近、全然学校来ないから心配でメールしちゃった。大丈夫?なんか先生は風邪って言ってたけどさ。そんな体調悪そうに見えなかったから。
ただの風邪なら、それでいいんだけどさ。もしなんか学校に来れない理由があるなら言ってよ。一人で抱え込むより誰かに言った方が楽になると思うし。
返信、待ってるからね。

ずるい。ずるいよ。私が今まで築いたものがこのメールで全部壊れた。壊れてしまった。本音が漏れる。漏れていく。今まで我慢してたのに。

「あ、もしもし?大丈夫?てか、急に電話かけてきて。やっぱりなんかあったの?」
「あ・・・あ・・・・・・」
気がついたら電話をかけていた。声が聞きたかった。今まで一人だったから。誰かに話を聞いて欲しかったから。
「・・・・・・うわぁぁぁぁぁん!!ありが・・・とう!ありがとう!!うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
「え?どうしたの!?」
隠さなくてよかったんだ。我慢なんかしなくてよかったんだ。
「うぇぇぇぇぇぇぇん!!」
「・・・・・・落ち着いたら話してね。笑ったりしないからさ」
今度の涙はとても暖かかった。







終わり

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