小説部屋

□バレンタイン
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人間なんか嫌い。そう思ったのはいつの頃からか。小学生の時?中学生の時?もしかしたら生まれた時なのかもしれない。とにかく、俺は人間が大嫌いだった。偽善と驕りの塊。無駄な知識と知能のせいで生まれた不良品。何度でも言う。俺は人間が大嫌いだった。
「…………」
いつもの時間に目が覚める。時間は一時過ぎ。もう日も高く上がって後は地平線に消えて行くだけ。……だと思う。
実際、俺の部屋はカーテンで閉め切っていて外の様子なんかわからない。雨が降っているのかもしれないし、雲が覆っているのかもしれない。夜なのかもしれないし朝なのかもしれない。でも、俺にはそんなことはどうでもいい。寝たい時に寝て起きたい時に起きる。そんな時間に左右されない生活を過ごしてきた。




……昨日までは。




――ピンポーン。
玄関のインターホンが鳴った。それは俺の家ではとても珍しいことだった。玄関前にはセールス等のお断りの紙を貼っているし、家から滅多に外出しない俺に訪問者なんてあるはずもない。まぁ、あるとすれば……親父のまわし者か。
「…………」
俺は居留守を決め込む事にした。多分、外にいるのは親父の部下。学校にもどこにも行かず無駄に過ごしている俺をどうにかさせようと寄こしたのだろう。……俺を改心させたら謝礼金を払うとでも言って。
俺の親父はどこかの有名ブランドの社長らしい。詳しくは知らない。ただ、外国に本社があるのは知っている。本当なら俺も家族と一緒にそちらへ行くべきなのだが、そんなことは絶対にお断りだった。俺は自由に過ごす。誰にも関わらない。必要分の金さえあればいいのだ。


ピンポーン。


二回目のチャイム。それでも俺は居留守を決め込む。どうせ、少し我慢すれば消えてくれるだろう。


ピンポーン。


三回目。それにしても、うるさい音だ。苛々して仕方がない。俺の時間に介入しようとしてくるところが特に腹立つ。


ピンポーン。


だんだん、チャイムの間隔が狭くなってきている気がする。相手も焦れているのかもしれない。ならあと少し我慢すれば――


ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン。


「ああ、くそ!!」
誰だ、こんなにインターホン連打する糞野郎は!!少し待ってみたが止む気配がまるでしない。こんなんだったら、さっさと出て文句つけて帰らせればよかった。
「ああ、今行くよ……くそっ一体誰だよこんなことするアホは……」
寝室を出て玄関へ向かう。その間もずっとインターホンは鳴りっぱなし。頭が痛くなってきやがる。
「今、開けますよ!」
玄関のドアを開ける。仕返しという訳ではないが、さすがにイラッときたので思い切り乱暴に開けてやった。
「あぐっ!!」
なにやら重い音がしてドアの動きが止まる。そこに居たのは――
「い、いたいですぅ……」
女だった。腰まで伸びた、若干癖っ毛のあるブロンドヘアーの女が玄関前に立っていた。
「誰だあんた」
「あ、あなたが良樹さんですか?」
おでこを摩りながら俺を見つめる。……いや、この身長差だと見上げるの方が正しいか。
「そうだが……俺になんか用でもあるのか?」
「私の名前は美羽って言います。えと……あなたのお父様に言われてここに来たのですが……」
やはり、親父関連か。めんどくさい。さっさと追い払っていつもの生活に戻ろう。
こいつを追い払おうと口を開く。しかし、それよりも早くこいつが口を開いてしまった。
「あの……お父様の事はご存知でしょうか?」
「……は?」
「ですから、あなたのお父様が……その、亡くなった……というのは……」
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