小説部屋

□卒業
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卒業。
この学校も今日で終わり。
まだ少し寒いせいか桜も咲いてない。この分だと入学式辺りには満開なんだろうな。うん、これは卒業する私たちの贈り物ってことで我慢しよう。
ってことで、元気に登校するんだぞ!少年たち!

さて、もう最後なんだしもう少し学校でも回ろうかな。
最初は教室かな?うーん、でも教室はまだ早いかな?それじゃあ、最初は下駄箱にしよう。今いる校庭から一番近いしね!
そういえば、下駄箱によくラブレターとか入ってるって聞くけどアレって本当なのかな?私は一回も見たことないけど……。
「あ、でも今は携帯とかあるし必要ないのか」
一人、納得。
でも、私は手紙の方が好きかなぁ。だって、心が籠ってるって思わない?機械的な文章よりよっぽど綺麗だと思うけどな。
「あー、恋とかしたかったなぁ」
ほんのちょっぴり後悔。
いや、今からでも遅くないのかな?この卒業のムードに乗っかって一つ熱烈な恋愛でも……。
「あ……」
下駄箱の影で二人の男女。
女の子が泣きながら笑顔を浮かべて。男の子は少し恥ずかしそうに照れ笑い……。
「やーめた」
なんか、あの二人見てたらそんな気持ちが無くなっちゃった。私にはあんな恋愛出来そうにないもんね。
それにしても、初々しいなぁ。あれはお互い初めての恋愛だね。がんばれ!私は応援してるぞ!
さてと、私もそろそろ別の場所に移動しよっかな。ここにいたらお邪魔そうだし。

「ここは、誰もいないか。やっぱり」
体育館。卒業式が行われた場所。今も片付けは行われていないみたい。椅子がさっきのままずらって並んでいる。
ここを見るとホントに卒業なんだなって改めて思わされてしまうなぁ。
一番後ろの椅子に座ってみる。
ぎし。
ここで卒業式を迎えて新しい未来へ飛び出していく。新しい出会いと別れ。
「きっと不安だよね」
あ、今すごい他人事みたいな言い方しちゃった。私も「卒業」なんだから関係ない訳ないのにね。
それどころか私はちょっと遠くまで行かなくちゃならないから他の人より不安でないといけないのに。
「あっちでも友達出来るかなぁ?知らない人ばかりだし」
とか、考えないと。
でも、
「ま、なんとかなるかな!」
結局、こんな考えしか出来ないんだよね。友達には楽観視し過ぎってよく怒られちゃうけど、仕方ないよね!こっちのが素なんだもん!

よし、次はどこ行こうかなぁ?
食堂?部室?それとも他の教室?
「うーん……どれもなんか違うんだよなぁ」
確かに顔を出しておきたい。全部見て回りたい。でも時間がないし……。
やっぱり、大事なところだけ。
うん、大事なところだけ見に行こう。

「やっぱりここは大事だよね」
まだ、春も始まったばかりだし風が冷たいなぁ。
でも、この屋上は私にとって凄く大事なところだから。ここにいなかったら、きっと私はこんなに笑顔でいられなかった。
ここで、彼女に会わなければ。彼女が私を止めてくれなければ。
私の未来は変わってた。きっと、悪い方向へ
だから、ここは大事な場所。私の生涯で一番大事な場所になるんだと思う。
「うーん、さすがに寝転がるのは嫌かなぁ」
ここで見る空は最高なんだけど……うー、地面が冷たい。それにせっかくの制服が汚れちゃうし。
「しかたないね。名残惜しいけど、君とはまた今度だ。青空くん」
なんとなく、空に手を振ってみる。毎日、ここで君と一緒に食べるご飯は美味しかったぞ!あ、でも雨とか雪は勘弁してほしかったなぁ。
でも、うん……大好きだったぞ!
「あ、もしかしてこれって恋?」
卒業の日に気付くなんて、ホント映画のなかの話みたい!おー、ろまんてぃっく!
「なーんてね」
思わず、一人で笑ってしまう。
さぁ、そろそろ行かないとね。教室に。

「ん?」
教室の中に誰かいる?
あれは、美希?
私を助けてくれた。あの屋上で私の未来を変えてくれた。心からの恩人で
私の親友。
「ねぇ、今日で卒業よ。本当に長かったわね」
もう、独り言?ホントに他の人に聞かれたら凄い目で見られちゃうよ?
「誰も、いなくなっちゃった。もう、こんな時間だし」
そうだね。もう夕方だよ。だから、ここに来たんだよ。
「ねぇ、みなみ?」
なぁに?
「なんで、死んでしまったの?」
……。
……ごめんね。
私は死ぬつもりはなかったんだよ。多分、運命だったんだ。私はあそこで死ななくちゃならなかった。
じゃないと、卒業式の日に事故なんか起きないよね。
「私、ちゃんと先生になったんだよ?みなみとの約束、ちゃんと守ったんだよ?なのに……見て欲しかったのに。褒めて貰いたかったのに」
わかってるよ。ちゃんとわかってる。見てたよ。美希が先生になったときも。壁が立ちふさがっても諦めないで前に進んだときも。
そして、美希が卒業式の度に私に話しかけてくれていたことも。
ずっと見てたよ。
「みなみ……」
「美希」
「……え?」
「もう、そんな驚いた顔しないでよ。私はこっち。そんな生け花に話しかけても危ない人にしか見えないぞー?」
だから、これはお礼。ずっと、私を覚えていてくれて。ずっと、大事にしてくれていた。
そのお礼。
「みなみ……」
「うん」
「あのね!わたし、わたしね!」
「ちょっと子供じゃないんだから、落ち着きなよ。美希は先生なんでしょ?」
「でも、でもぉ!」
「全部知ってるよ。私はずっとここで美希を見てきたんだから」
泣きだしてる美希の頭をそっと撫でる。
「頑張ったね。おめでとう」
「…ありが…とう…」
「もう、顔ぐしゃぐしゃにして……これじゃ、どっちが先生かわかんないよ?」
ホントにもう……しかたないんだから。
「それじゃ、そろそろ行こうかな」
「え?」
「だからさ、お願いがあるの」
お別れが寂しいけど。
先生になった美希にしか出来ないお願いを。

「卒業式をやって欲しいんだ」

夕暮れの教室。
教壇に立つ美希と、私の席だった場所に座る私。
「高梨みなみさん」
「はい」
起立。そのまま美希の元へ。
「卒業……おめでとう」
「ありがとう」
卒業証書授与。
これで、やっと卒業出来る。
「ホントに…ありがとう」
「だめっ!」
「美希……?」
「いっちゃだめ!おねがい!」
「大丈夫だよ。私は美希のそばにいる。美希が忘れない限り私はずっと一緒にいるよ」
「みなみっ!」
「だから、ずっと笑っていてね。美希が泣いてたら……私も悲しいよ」
「……うん」
「ありがとう……」
「うんっ!」
彼女の精一杯の笑顔。でも、心からの笑顔。
すごく綺麗だよ!
今まで、本当にありがとう。
ばいばいっ!
















「卒業」終わり。

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