短編 「四季折々」

□夜桜のように・・・
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西国の屋敷では 茶会を兼ねた花見が開かれた

しかし‥表向きは茶会だが 真意は伽羅の御披露目が目的だった

殺生丸は茶会など興味はない

只 己以外の男たちが放す「伽羅を娶る」妖気が気に喰わない

父上の闘牙王 母上の御母堂と共に伽羅も同席し 御挨拶回りをしながら

来客に茶を立て 琴や日本舞踊を披露し 毅然とした態度で振舞っていた

慌ただしい一日 全ての会が終わったのは 夜空に満月が昇り光輝いていた

慣れない場で気疲れしてしまった伽羅は湯に浸かり 身体の疲れと芯が温まるほど湯に浸っていた

洗いたての長い黒髪 ほのかに匂う桜華と甘い香り

雫を手拭で拭き取りながら 殺生丸と廊下ですれ違った

何気ない仕草と香りが 己れを惑わす

チラッと目と目が合い「‥フッ‥」と笑みを洩らす殺生丸

伽羅は恥ずかしさから 頬を紅色に染めてしまった

満月の月灯りに照らされている夜桜は 凛として堂々と美しく咲き誇り

悩みや迷いを打ち消して 心を和ませてくれる

伽羅は足を止め 縁側に腰を下ろした

其処へ 長年屋敷に仕えている 長老の爺がやって来た

「‥お嬢‥殺坊ちゃまが‥此れをお作りになられましたよ‥」

桜餅と茶を立てられ 冷たく冷やされていた

「‥爺‥いつもありがとう」

穏やかな笑みを残し 会釈しながら 爺は下がった

振り向くと気配をも感じさせず 背後ろには 殺生丸が立っていた

普段 無口で冷静な殺生丸が 穏やかな口調で

「‥美しい夜桜だ‥」

伽羅の瞳を見つめ 湯上りの身体が冷えぬよう モコモコで緩やかに優しく包み込んだ

肌心地が気持ちよく温かい‥

伽羅は 殺生丸の真の心の深さと優しさを感じていた

そして伽羅は 精霊に導かれたかのように 桜樹に近寄り見上げ

月灯りと共に照らされながら振り向き 満悦の笑みで 殺生丸に微笑んだ

美しく 誇り高き気品があり 汚れひとつない心と微笑み

春風が吹き 桜華がヒラリと舞散り 長い黒髪が靡く

「‥お前はいつの間に‥人間の成長の早さというものは‥」

子供から少女へ‥そして年頃の女へと変りゆく瞬間であった

そんな光景を目の辺りにした殺生丸は 心が揺れ動いた

何事にも冷静で 動じない殺生丸が いつもと何か違う感情が湧き上がった

「‥なるほど‥そういう事か‥」己自身の心を悟った

殺生丸は伽羅の元へ近寄り そっと抱き寄せ

「‥心美しく汚れるな‥己のために‥」

そう優しく耳元で囁いた

・・・(完)・・・
 

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