短編 「四季折々」

□七夕
1ページ/1ページ


伽羅が大切に育てていた芍薬の季節が終わり 

梅雨時も通り過ぎ 初夏の季節がやって来た

蝉や夏の昆虫たちが大地から目覚め 

小さな体で桜樹によじ登り 脱皮を始め 新しい生命が誕生した

屋敷では 家来や仕えの者たちが ドタバタと駆けずり回り 慌ただしい

七夕の準備に取り掛かり 男衆は竹林に入り 笹を調達していた

伽羅は御母堂と一緒に 女衆と共に和気藹々と お喋りしながら茶を飲み 団子を食べながら

丁寧に磨かれた笹の葉に 短冊や飾り付けを手伝っていた

其処へ 殺生丸が通りがかり 大空を見上げ

「‥七夕‥か‥」ぽつりと告げて そのまま何処かへ 飛び立ってしまった

一瞬 寂しげな表情を見せた伽羅に 御母堂はニャリとしながら敢て黙っていた

何故なら 殺生丸が何処へ行ったのか 知っていたからだ

飾り付けが 一本また一本と進む中

空から屋敷に向かって 物体が突進してきた

その正体は 殺生丸と黄金色に光る 巨大な笹だった

「‥樹齢三千年の笹だ‥好きなだけ飾り付けするがいい‥」

殺生丸が伽羅に向けて 発した言葉であった

‥‥見事に光る 黄金の輝き‥‥

この笹には 犬妖怪先祖代々からの 言い伝えがあった

仕えの者や家来たちが 一斉に辺りを囲み 殺生丸が結界を張った

何が起きたのか 訳わからず 呆然と立ち尽くす伽羅は 結界の中心にいる

「‥飾り付けはどうした?‥」

殺生丸の声に 正気を取り戻し 好きなだけ飾り付けをして

一枚の短冊に 想いを込めた願いを書き綴った

殺生丸は 伽羅の部屋から 眺められるように 自らの手で 大地に笹を植え付けた

笹は時が経つにつれ より一層に 黄金の光を放し

天ノ川に向かって 金粉が舞い上がり始めた

殺生丸は その光景を見守り 伽羅が綴った短冊に目を向け 笑を溢した

「‥人であるが故 想い伝えぬ 儚き恋心‥」

殺生丸は天ノ川が 一番美しい時を見計らい 伽羅を誘った

夜空一面に ダイヤモンドのように輝く 星のジュータン

美しさゆえ 感無量あまり 言葉が出ない

殺生丸は 伽羅を力強く抱き寄せ

「‥愛しく想う心‥妖も人も関係あるまい‥それがどうした?‥くだらん‥」

「‥‥‥‥‥‥‥‥」

「‥伽羅‥この私についてくるか?‥」

殺生丸の突然の問いかけに 戸惑う事なく 伽羅は頷いた

お互いの想う心を確かめ合い 初めての熱い口づけが 幾度となく 繰り返された

「‥愛しきは 種異なり候‥」

殺生丸は 誰にも悟られぬように 想いを込め 短冊に書き綴った 願いだった


‥‥(完)‥‥

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ