短編 「四季折々」

□紅葉 こうよう
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西国の山々は 紅葉一色に染まり 

岩山からは滝が威勢よく流れ落ち 飛沫を上げていた

滝の霧で 岩山は足元が滑りやすく 木々は水分を含み

地も湿気を帯び 土と苔葉の匂いがした

殺生丸は 伽羅の足元が 滑らないようにと 腰に手を回し しっかりと支えている

屋敷内の庭園も 紅葉が色鮮やかに染まり 

栗や柿 梨と葡萄などの旬の果物が 豊富に実を付けていた

鹿威しが響き渡り 石畳には もみじの葉が 一枚また一枚と 散り落ちて行く・・・

二人は 仲睦まじく 寄り添いながら 紅葉を楽しみ

甘える伽羅を愛らしく そっと抱き寄せる殺生丸は

何も語らずとも 互いの心が通じ合い 以心伝心とでも言うのであろうか・・・

枝振りの良い 見栄栄えするもみじを見定め 殺生丸は立ち止まり

小枝のもみじの葉を摘み取り 伽羅の髪に 簪代わりにさした

「・・・よく似合う・・・」

見つめ合う二人は 熱い口付けを交わし 愛しさを 幾度も確かめ合った

唇が離れた瞬間 殺生丸は伽羅を抱き上げ

大空に飛び立ち 下流へと向かった

お互いの鼓動が伝わる・・

殺生丸の逞しい腕と 厚い胸板に包み込まれ しっかりと支えられていた 

秋風が吹き 大空から見下ろす風景も 心和み安らぎを与えてくれた

風向きが変わり 匂いが風に乗り 木々や果物の香りがする

殺生丸は伽羅の顔をチラリと見て

「・・・フッ・・・」と笑みを浮かべ 地に舞い降りた

辺り一面は 紅葉に包まれ 木々の隙間から 太陽の光が差し込み

側には 屋敷から流れてくる滝の畔がある

庭園と同様 葡萄や梨などの果物が実を熟して美味しそうに成っていた

「・・・食べたいのであろう?・・・」

殺生丸は葡萄を何房かもぎ取り 伽羅に一粒 口移しで与え

「・・・美味しい・・・か・・・?」

嬉しそうに頷く伽羅に 殺生丸は 優しい口付けを与えた

二人は其処へ腰を下ろし 殺生丸は梨の木に もたれかけ

伽羅を守るように背後から 優しく抱きしめた 

殺生丸は 胸元から 真鍮で出来た簪を取り出し 

伽羅の髪にそっと差し 見つめ合う二人・・・

伽羅が御礼を言ういなや 

殺生丸の優しい口付けが 幾度となく繰り返される

徐々に熱い口付けに変わり 殺生丸の舌が 伽羅の口の中に入ってきた

お互いの舌が優しく ねっとりと・・・

時には 熱く激しく絡み合う

殺生丸の口付けの心地よさに 吐息から魅惑的な声を漏らしてしまった伽羅・・・

日が暮れ始め 紅葉と同色になってしまった夕焼けは

二人を見守り続け 戯れを名残惜しみながら

時が経つのも忘れ 余韻に浸る二人の姿が そこにあった・・・


・・・(完)・・・

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