短編 「四季折々」

□寒椿
1ページ/1ページ


闘いに生きる 妖の男・・・

その男の身を案じ 帰りを待つ 人の女・・・

殺生丸は戦のため 半月以上も 屋敷を留守にしていた

昨夜の晩から 雪が降り積もったのか

吐く息も白く ヤケに冷え込む 今日この頃

雪見障子から見える中庭は いくつもの 寒椿が咲きが 雪化粧をしていた

少し障子を開けると 辺り一面は 真っ白な雪で覆われ 別世界の様である

朝日を浴び 割れたガラスの破片のように キラキラ光り輝き 眩しい・・・

伽羅は人であるが故 寒さが身に凍みる

その為 殺生丸が特注で作らせた 暖炉や掘りごたつが部屋にあった

囲炉裏に火を起こし 鉄瓶をかけ 湯を沸かしながら

雪見障子の陰から寂しげに 椿を見ていた

人の世の風習では 椿は不浄の華・・・

枯れ落ちる際 首から ポロリと散って行く

しかし 妖の世での椿は 敵の首をもぎ取ると言う 縁起物の華だそうだ

無事でいる事を願い 安泰でいる事を・・・

そして 思い出すのは あの熱い口付けと 抱きしめてくれる 

温かな 優しい胸と 逞しい腕の中

恋しくて 愛しくて 殺生丸を思い出す程

身体の芯が 焼けるように 熱くなってしまう・・・

「・・・逢いたい・・・熱い口付けが・・・欲しい・・・」

そんな想いを抱きながら 椿を見ていた

「・・・伽羅・・・」

そして もう一度 名を呼んだ

ぼんやりとしている伽羅は

「・・・どこかで 聞き覚えのある声が・・・」

振り向くと 其処には 戦を終えた 殺生丸が気配を消して 立っていた

「・・・どうした・・・何を考えていた?・・・」

驚きと嬉しさあまり 殺生丸に駆け寄り 抱き付いてしまった

愛するお方が 今日も無事で 生きて帰って来れたと・・・

殺生丸はそんな伽羅の気持ちを察してか

「・・・私を誰だと 思っている・・・」

伽羅は 殺生丸の瞳を見つめ

「・・・逢いたかった・・・お願い・・・口付けして・・・」

幾度もせがむ伽羅に 殺生丸は何も語らず 笑みを浮かべ 優しい眼差しで

伽羅の瞳を見つめ 暖かく 抱きしめた

熱い口付けを交わしながら

「・・・伽羅・・・直ぐ出掛ける・・・身支度をしろ・・・」

そう告げられ 支度を始めた

外は 凍えるような 寒さと冷たさ

殺生丸はモコモコで 伽羅の身体を包み込み 抱き上げて 寒空に飛び立った

真っ白な雪の中で 色鮮やかに 椿が咲き誇り

まるで 戦の勝利を物語っているようである

伽羅は殺生丸の頬にスリ寄せ 温かいモコモコと 逞しい腕と胸の中で

安らぎと幸せに 満ち溢れていた


・・・(完)・・・

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ