〜愛讃歌〜「殺生丸と伽羅」

□抱擁
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殺生丸が向かった先は 「癒しの湯‥長寿湯」

亡き父上が 戦で疲れ 傷を負おった者たちに

労いを込め 造られた 不思議な 妖力を持つ 湯である

この湯に浸かると どんな深傷でも 忽ちに癒し 治ってしまう

「‥伽羅 しっかり掴まっていろ‥」

「殺生丸‥待って‥着物が‥」

「‥着物など 幾らでも誂えてやる‥」

殺生丸は 伽羅を抱っこしたまま 空に向かって飛び

巨大化した 本来の姿‥犬妖怪に 変化した

威勢よく 湯に飛び込む前に 湯圧で伽羅が怪我をしないように

注意をしながら 鬣に掴まらせた

また 湯に逆上せないようにと

其処には 殺生丸の優しさがあった

伽羅の前では めったに見せない 本来の姿‥

伽羅は 既に慣れているため 驚きや恐れもない

ただじっと 殺生丸の側に 寄り添っている

少しずつ 背傷も 癒され 伽羅も 巨大化した 殺生丸に 凭れかけ 湯に浸かった

ふと 爪に目をやると  武器である 爪先が割れ  ボロボロになっている

何れ程の戦だったのか‥伽羅は想像した

考え込んでいる伽羅に

「‥どうした‥」

「えっ?」

いつの間にか 殺生丸は 仮の姿に 戻っていた

「殺生丸‥傷は大丈夫なの?」

「‥もう大丈夫だ‥心配はいらぬ‥安心しろ」

「 本当に大丈夫?」

伽羅の瞳の奥から 大粒の涙が 零れ落ちた

頬を伝う涙を 殺生丸は 何も言わず そっと 拭い取り

互いに 見つめ会う二人‥

銀色に輝く殺生丸の瞳は 暖かく 優しい

「‥伽羅‥」

殺生丸は 伽羅を 優しく引き寄せ 力強く 抱き締めた

愛しき女を 悲しませ 

其でも尚且 想いを振り切り

戦に挑まなければならぬのか‥

即ち 此が 己の運命(さだめ)‥宿命とやらか‥

殺生丸は 口付けを交わしながら

「‥心配かけた‥すまぬ‥‥」

涙する伽羅は 殺生丸に甘え抱かれ しがみ付いていた

徐々に 口付けが 熱くなり 微かに 伽羅の吐息が洩れる

殺生丸の舌が 絡み付き 時には 激しく ねっとりと

心地よい 口付けに 伽羅の指先は 力が入った

殺生丸もまた 男として 変化していく

殺生丸は 伽羅の手を取り そっと 触れさせ

ニタリと 自信たっぷりに 笑みを浮かべ

「‥どうだ‥?」

熱く 張りつめた 硬い自身が 脈を打っていた 

「‥殺生‥丸‥」

殺生丸の口付けは 徐々に うなじ 首筋
を 愛していく

伽羅の吐息が 快楽の喘ぎに変わった時

「‥伽羅‥此処では 風邪を引く‥部屋に帰るぞ‥」

殺生丸は伽羅を抱き上げ そっと 耳打ちをした

「‥どうやら 覗き見が悪趣味なヤツが何人もいる‥」

数歩歩いた所で 殺生丸は 足をピタリと止めた

「‥私の事など 構うな 心配無用だ‥」

決して 覗き見をしていた訳ではない

其所にいたのは 戦で 殺生丸が庇い 命拾いをした 家来たちだった

頭を下げたまま 殺生丸と伽羅を 見送った

 
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