THW-Chronicles-外伝

□軟禁と監禁は違う
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「よぉ!」

給湯室へ入ろうとした少年二人を見つけ、軽快に声をかける青年─柊。

「ちーっす」

少年の一人、攻特隊隊長ザビーネも軽快に挨拶を返す。

「茶でも飲みにきたか?淹れてやる」

「いや、コーヒーを…」

「はあ〜っ」

盛大なるため息が、柊の口から洩れる。

「近江、こんな馬鹿は放っておいて、茶でも飲もうぜ」

給湯室からザビを追い出して、扉を閉める。ついでに鍵もかける。

『あっ!近江くんが監禁されたっ!』

「るせぇっ!これは監禁じゃねえっ!軟禁だ!」

『反論するとこ、そこかよっ!』

「さて、おまえは俺のお茶を拒んだりはしねぇよな?」

すでに急須を取り出したり、湯飲みを用意したり、水温計を用意したりしている。

「ありがたくいただきます」

「ふっ、あの馬鹿と違っていい返事だ」

コンロに火をつけ、小鍋に茶葉を入れ、煮出し始める。

「あの…、簡単に淹れられるやつでいいですよ?」

「あ゙?わかってねぇなあ」

ヤバい…。
近江がそう思った時には、もう遅い。
入れてはいけないスイッチを入れてしまったようだ。
それにより、柊奏によるお茶の蘊蓄講座が始まってしまった。
椅子に座らされ長々と語られる。
語っている最中も、しっかり茶葉の煎り具合も見ており、手慣れた動作で作業を進めていた。
手に湯飲みを持たされた後も、飲み終えた後も蘊蓄は続く。

(いい加減、解放してもらいたいのですが…)

そうは思っても、口には出せず、近江はただひたすら柊に付き合わされていた。しかも、お茶に関する蘊蓄から、いかにお茶を愛しているかということにすり変わり、それについて語り出していた。






「お茶汲みたいちょ〜」

「おや、どうしたんだい、隊長さん。アタシに声をかけるなんて、お茶でも飲みたくなった?色々サービスしちゃうよ?」

「あ、いや…、いらないです」

「じゃ、なんだい?」

急に興味を喪失させ、脱力気味に、緑間は訊いた。

「近江副隊長が、お宅の副隊長に軟禁されてるんすけど、どうにかしてもらえない?」

「は?近江くんが奏からお茶をご馳走になっているって?そりゃ、いいねぇ。奏の淹れるお茶も格別なんだよ。ま、アタシには劣るんだけどねぇ」

んふふ〜、と頬に手を添えて微笑む緑間。おそらく、空想でお茶を楽しみ始めているのだろう。

「ちょっ!近江くんを助けてあげてっ」

「いいんじゃないかい?別に奏は危害なんて加えやしないよぉ。彼はいいよねぇ。いっそ攻特隊本隊副隊長なんて辞めさせて、うちの隊に貰いたいくらいだよ。で、色々仕込むのさ。ああ、愉しそうだねぇ…。あんたにもお茶のなんたるかを叩き込んであげようかぁ?」

「や、あの…、その…」

女性で、しかも歳上相手に妙な迫力で迫られ、さすがのザビもどう切り返していいかわからない状態だ。

「ごめん、副隊長!俺に君は救えなかったよっ!」

どことなくキャラを崩壊させながら、ザビは泣いてもいないくせに涙を拭くフリをしながら逃げていった。

「あ〜あ、行っちゃったねぇ」

クックックと笑いながら、給湯室へと足を運びだす。果たして、近江を解放しになのだろうか、それとも柊と共に近江で楽しむためなのだろうか、さてはて…。





-end-

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