Novel
□They slowly fade away
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はるか昔、日本には一対の神様の夫婦がいた。
男神のイザナギと、女神のイザナミ。
二人の間にはカグツチが生まれたが、カグツチは火の神であったためにイザナミは火傷をして死んでしまう。
イザナギはカグツチを殺し、黄泉国へとイザナミに会いに行く。
だがそこで見たのは変わり果てたイザナミの姿だった。
恐ろしくなったイザナギは追いかけてくるイザナミをなんとか振り切り、彼らは完全に離縁したという。
その後、イザナギは黄泉国での穢れを祓う禊を行い、彼からはアマテラス、ツクヨミ、スサノオなどの神々が生まれたと言う。
「どうしてイザナギは、どんな姿になろうともイザナミを愛しぬかなったのでしょうね」
「さあ…な。黄泉国とは、それほどまでに、恐ろしいものなのではないか?」
「オレだったら、どんな御堂さんでも愛する自信があります」
「あまり、神を…悪く言うもんじゃない」
「オレは幻滅なんてしませんから、だから…
だから早く吐いちゃってください!もう何分こうしてると思ってるんですか!」
「うう…」
御堂が吐き気を訴え、こうしてトイレに籠る原因となったのは、約30分前から始めた夕食である。
この頃二人とも忙しく、落ち着いて夕食をとることが出来なかったため、少しハメを外しすぎたのだ。御堂が。
正確に言えば、酒を煽って酔っ払った克哉を美味しくいただこうとしたわけだが、元体育会系でザルである彼に敵うはずがなかった。
克哉の前で無様な姿を晒したくないが、さっさと吐いて楽になりたい気持ちがせめぎ合い、なかなか吐けないでいた。
克哉が出ていってくれれば済む話なのだが、心配だからと、立ち去る気はないらしい。
「御堂さん、吐くことを禊だと思ってください!神様だってやったんだから全然恥ずかしくないですよ!」
「すさまじい無茶振りをするのだな…うぷ、」
「ほら、生まれますって!」
「何がだ…」
「ア…アマテラスとか…?」
「アマテラスはイザナギ…の左目から、生まれた、んだぞ…どんなイリュージョンだ…うぇ、」
「まあ左目から吐いたらドン引きしますね」
「おい」
これ以上続けても不毛なだけだ、と御堂はついに覚悟を決め、指を喉奥に差し込むとあっさり胃の中のものを吐き出した。
「見苦しいものを…すまないな、克哉」
「…………」
「克哉?」
「すみません…なんか見てたら、オレまで吐きたくなってきて…やっぱ、飲みすぎたかな…ぅぅ…」
「…ほぅ」
御堂は悪戯を思いついた子供のように薄く笑みを浮かべると、克哉が青い顔をさらに青くした。
「まさか…」
「吐くことを禊だと思うのだろう?さあ、存分にやりたまえ」
「ちょ、嫌ですよ。オレは大丈夫、ですから、出ていってください」
「安心したまえ。私はたとえ君が右目からツクヨミを生もうが決して引いたりしない」
「いーやーだー!」
すっかり形勢が逆転してしまい、克哉はそれ以降神話は話題に出さなかったと言う。
Fin