少年陰陽師
□《変わるもの そして》
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「ありがとな、車之輔」
「本当にありがとう」
ここまで運んでくれた昌浩の式に御礼を言うのを二人は忘れない。
車之輔はそんな主人たちに、車体をギシギシ揺らして何かを伝えようとしている。
彰子は首をこてんと傾げ、
「なんて言ってるの?」
と尋ねる。
昌浩はそんな彼女の仕種に愛おしさを感じた。
「《やつがれはご主人たちのその言葉だけで胸がいっぱいです。どうぞ楽しいひと時をお過ごし下さい》だってさ。それじゃあ、行ってくるね」
彰子と手を繋ぎ、車之輔に背を向けたが、昌浩はふと止まって振り返る。
いつもの白が見当たらない。
「もっくん?行かないのか?」
「ああ。お前らだけで行ってこい。俺はここで待ってる」
車体から幼子のような甲高い声だけが聞こえる。
昌浩は珍しいなと思いながらも再び背を向け、歩きだした。
その時
「馬に蹴られたくはないからな」
とボソッと囁かれたのを昌浩は知る由もない。