少年陰陽師

□《現在 過去 未来》
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起きるにはまだ早すぎる朝方。

はっとしたように彰子は目覚めた。
いつもなら白雪のような頬に赤みが差してとてもあたたかなのに、今はただ真っ白でその面差しは強張っている。


だが、傍らにある体温と心音にだんだんと落ち着き、安心したように彰子は息をついた。

「昌浩…」

囁くように発したその声は震えていて、まだ少しだけ薄暗い部屋に溶け込んでいった。
そろりと手を伸ばし、愛しい人の頬にふれる。彰子の隣で眠るその人は規則正しい寝息を立てていた。安らかな寝顔をみながら先ほどのことを思い返す。



夢を、みたのだ。
過去の夢を。

とても怖くて、悲しくて、切ない。
彰子と昌浩が出会って間もない頃の夢。


最初はただひたすら暗くて何もわからなかった。けれど、理解していた。これは夢だと。そのうち自分を呼んでいる声が聞こえたような気がして、導かれるように目を開ける。
貴船の風景。闇夜に浮かぶほっとしたような昌浩の顔。剣を握る自分の手。
この先を私は知っている。
駄目、だめ。この先は―――。

目の前が真っ暗になって場面が変わる。
指切りと約束。それからお父様に告げられた“入内”という言葉。対屋でさだめを変えたいがために口を開く自分の姿。
この先も、知っている。
めまぐるしく変わる場面の中、必死にだめだと、やめてと叫んだ。たとえそれが夢の中のことだと知っていても、声の限り叫んだ。


そこで目が覚めたのだ。
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