少年陰陽師
□《痛い 居たい いたい》
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雨は止まない。
「行ってきます。」
「…行ってらっしゃい。」
いつもと変わらぬはずの挨拶。
しかし、二人の視線は結ばれることなく交わされた。
ぎこちなさが空気を支配して、昌浩は逃げるように背を向ける。
彰子は何も言わない。言えない。
白い物の怪が常より硬い声で
「行ってくる。」
そうとだけ告げ、雨に濡れる昌浩の後ろ姿を追いかけていく。
いつまでも見送る彰子に、傍らに隠形していた天一が声をかけた。
痛ましげに歪められたその瞳にさえ気づかずに、彰子は彼の背をみつめる。
昌浩は振り向かない。
どうして。
どうして、と問いたかった。
何故で間違えてしまったの?
その思いが強くて悲痛に目を伏せる。
「彰子姫?」
「大丈夫よ天一。私は、大丈夫。」
そう笑った彰子に天一は絶句した。
己に言い聞かせるような響きをもった言葉と、なりきらなかった微笑みに。
本来の彼女はこんな笑みではない。
花が綻ぶように、周りの者もあたたかくさせるような、そんな笑顔を浮かべる少女だ。
けれど、いまは。
「…露木さまのお手伝いをしなければね。」
歩きだした彰子に天一もまた、かける言葉を失った。