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寡黙と憂鬱に咲く[5]


5.
言い訳は日常茶飯事なのか、平然として、銀八は戻ってきた。
高杉は角に背中をつけたまま、複雑な面もちで彼を迎える。

「逃げなかったな…」

目の前に立たれると、高杉は俯くことしか出来なかった。
彼の肉体が醸し出す、淫靡な圧迫感。彼の娘に対する後ろめたさ。
自分の身体を駆けずり回っている、阿婆擦れな本性。様々なものが、高杉を苛んだ。

「てっきり、いなくなっちまったとばかり」
「正直…」
「ん?」

自分が銀八の家庭を壊す、大きな要因になり得るのではないか、という恐怖感。
銀八から逃げたのは、それが第一だったが、それだけではないことも、高杉は気づいていた。


「この2週間、お前に抱かれたくて、仕方なかった…」
「………」


言葉にするのが不安だったが、その時の銀八の表情があまりに優しげで、思わず本音を口にしてしまう。
誰とセっクスをしても、銀八のあの獰猛な動きを思い出すと、満足できなくて退屈だった。
銀八と再会を果たした時、湧き上がる昂ぶりを抑えるのに、どれだけ必死であったか。

「そんなに俺とのセっクスがよかったか?そりゃ、嬉しいことを聞いたな」

自分のセっクスに自信はあるのだろうが、高杉の口からそんな言葉が出てきたことは、
意外だったらしい。

「安心したよ。結構プライド傷ついて、苛々してたところだ」
「え?」

今度は高杉が拍子抜けする番だった。

「俺の家庭事情じゃなく、俺のテクに満足できなくて、逃げたものとばかり…」
「そんなこと…」

むしろ、銀八の身体に夢中になってしまう自分が、怖くて仕方ないくらいだ。
あの時、銀八は何てことない顔で、高杉の拒絶を受け入れた感じだったから、
彼のほうこそ、自分のことなど眼中にないのではないかと、思ったほどだ。

「それなら遠慮の必要は、ねえよな?」
「……でも…」
「欲望に忠実になれよ。俺たちは、そういう関係だろ」

盛りをぶつけ合い、究極の卑猥な求愛行動をする仲。
相性が抜群であることを確かめ合えた今、これ以上の何を、要求する必要があろうか。

「俺に抱かれたいだろ?晋助」

耳元に、嫌らしい低音で囁かれた。初めて、名前を呼ばれた気がする。
ぞくぞくとよこしまな鳥肌が立ち、高杉は喉を震わせる。
ゆっくりと、頷く。

銀八の家庭のこと、取りあえず理性を一旦胸の奥に仕舞いこみ、高杉は本能に呑まれることにした。
それだけ、高杉は余裕がなかった。

6.
部屋に入ると、服も脱がずに二人してベッドに傾れ込み、シーツを数秒のうちに皺苦茶にするほどに、
激しく絡み合い、転げまわった。
銀八がこれでもかと振らせてくる唇の雨に、くらくらとして、不思議なくらい、
身も心も満たされた。

ああ、やっぱりこの男がいい。
こんなに外の世界をそっちのけに出来るほど、夢中になれるセっクスはない。
衣服の上からでも、彼の鋭い愛撫は充分なくらい、高杉を昂ぶらせた。

高杉のパンツからベルトを引き抜くと、そのまま高杉の細い両手首を頭上で組ませ、
痣が出来るほどに縛りあげる。
銀八は服を手早く脱ぎ捨て、高杉の上反った身体に乗り上げると、性鬼の形相で高杉を睨み、
荒々しく身ぐるみを剥がして行く。
美麗な裸身をさらされると、銀八に脱がされたことで、高杉は興奮に顔をしかめ、甘い溜息をついた。

「はっ、これだけでおっ勃ててやがる。男のおもちゃにされんのが、そんなに嬉しいか?」
「ああっ!」

デニムを太腿あたりまでずり下ろされ、根元を握られると、高杉は悲鳴に近い声をあげる。
次に両脚を抱えられ、双丘が浮くほどに持ち上げられると、そのままデニムを脱がされた。


「お前のケツの穴が丸見えだ。恥ずかしいか?」
「…すこし、恥ずかしい…けど」
「けど?」
「ぞくぞく、する…」


息を吹きかけられ、高杉は真っ白い小尻を、夥しく震わせる。
小さく収縮する裏の蕾を、指で広げられたかと思うと、そこに、ねっとりとした肉塊が侵入し、

「ああんっ」
「すっかり変色しちまって…ここで色んな男のちンぽ、しゃぶってやがったんだろ?」
「ああっ、もっと…もっと、言ってっ」

羞恥地獄に追い込んで、退屈な日常を真っ白にしてほしい。
銀八は、そんな高杉の屈折した欲望に、答えてくれるどころか、予想だにしない屈辱を、
見事に与えてくれる。

銀八の舌が何度も性感帯を弾いてきたので、高杉は琥珀の肌を夥しく痙攣させ、舌の卑猥な音に合わせて、
善がり声を引きつらせた。


「ああっ、イイっ、すご、いっ…」
「いつになく悦がってんじゃねえか。時間が空き過ぎて、性欲が爆発しちまったか?」
「っ、だ、って…っ」


舌先が硬く尖って、奥を貫いた時、


「ああん、イクうっ、イっちゃうっ」


高杉は腹部に、濃度のある白蜜を何回かに分けて、散らせていった。
呼吸の整わない高杉の顎を掴み、銀八はその唇を強めに吸う。

「2週間、俺以外のちンぽだって、お前、咥えてたんだろ?」
「咥えて、た…」
「なのに、こんなに乱れちまって…お前は淫売婦以下のマゾ犬だな」

その通りだ。一種の、不要な才能、とでも言おうか。
不意に、未だ先刻の余韻に浸っているそこに、凄まじい痺れが走る。
銀八の指が二本も潜りこんで、内部で踊っていた。

「ああっ、そ、そこっ、ああんっ、だめえっ」
「腰が揺れてるぞ、晋助。そろそろ、ちンぽが欲しくなってきただろ?大好きだもんな、お前。男のちンぽが」

容赦ない矛先によって、感じる部分を嬲られ続け、かつ、銀八の言葉の魔に侵されて、
高杉の裏洞は口を莟む。

「…ほし、い…っ」
「何をだ?俺がこの前教えたように言ってみろ」
「銀八の、ちンぽ…がほしい……」
「尻の穴でしゃぶらせてほしい、て言えよ。お前は根っからのど淫乱で、マゾ犬だろ?
普通の言葉を選ぶんじゃねえよ」

脈打つ肉を指の腹で擦られ、高杉は一度短い悲鳴をあげて、


「尻の穴で、しゃぶらせて……銀八のちンぽを、いっぱいしゃぶらせてっ」


言った後、悦楽の波が押し寄せて満潮になり、全身が病的に震えあがる。
そんな高杉の浅ましい有様に、銀八は眩暈を覚えるほどに、食す者の本能を揺さぶられた。


「しゃぶって、ぶっ飛べよ」


高杉の、骨格の細さが見てわかるほどに、引き締まった両脚を限界まで広げさせ、
自身の硬直した火柱を宛がい、先端を忍ばせ、ゆっくりと中に入って行く。
一気にではないところがもどかしかったが、その逞しい先頭が奥に触れると、高杉は陶酔の溜息を漏らす。

「相変わらずせめえな、お前の中は…」

どういうわけか、彼がおかしそうに笑った。
3度目の情事だからか、あるいは、高杉に自分のプライベートな一面を知られてしまっているからか、
同じ激しさはあっても、以前のように慎重なセっクスではなかった。
高杉もつられて笑ってしまう。

「銀八のも…あいかわらず…」
「あいかわらず?」
「硬くて…とっても……大きくて…っああ!」

一瞬、頭が真っ白になる。神々しいものの突き穿ちが、高杉の全身を食いつくした。
待ちわびていた。誰と寝ても、その深い刻印が満足させてくれなかった。

「ああっ、ああっ!あっ、ぁあっ、っん…あああっ」
「欲しかっただろっ?俺のちンぽ…しゃぶりたくて、仕方なかったんだろっ?」
「ああんっ、ち、ち…んぽ…ああっ、イイィんっ」
「淫売婦だって、こんなしゃぶり方しねえよっ。え、どうなんだっ?俺のちンぽが好きか?晋助っ」

恥、という感情が喜悦に変わり、高杉はプライドをかなぐり捨てる。


「好、き…すきっ、銀八の、ちンぽ…」


いつの間にか、自分の不浄な部分に染みついて、焦がれるようになってしまった、それ。


「俺のちンぽで、イキてえかっ?」
「っイキ、たいっ…イカせてっ」
「ぐちゃぐちゃにされてえかっ?」
「し、してっ…ぐちゃぐちゃに、してっ」


ああ、自分はなんて、おぞましい獣を飼っているのだろう。
善意とか悪意とか、ずる賢さとか、臆病とか。
人間の持つ独特の感情の何者にも勝る、この凄まじい邪念。
これひとつで、何もかもどうでもよくなってしまう、邪念。


「ああっっ、イクっ、銀八、もう、とろけそうっ、限界っ」
「っ、化けモンかお前、何つう締めつけだっ、ああっ、出るっ」


お互い、醜い若芽を開花させ、どん底の響きをあげていくと、その後は突如沈黙し、
二つの欲棒からは、とめどなく白いとろみが溢れていた。
高杉の聖穴から自身を引き抜くと、銀八はそのまま高杉に咥えさせ、中で出し切れなかった残液を飲ませた。

「美味いか?」
「んン…ん…」

苦悶の表情ながら、進んで根元まで咥える高杉の姿は、愛しささえ覚えるものだった。
項垂れた生肉の先端で、何度か高杉の唇をなぞり、弄んだ後、高杉の手の拘束を解く。
真っ赤な束縛痕が、痛々しいが、それは捕食者である銀八の悦びでもあった。

「んんうっ」

魔性の刀はすぐに研ぎ澄まされ、硬さを帯びると、高杉の口内を串刺しにした。
両手が自由になった高杉は、上体を起こし、膝をついた銀八の前で犬の姿勢になり、
手と舌を、交互に使う。
頬をすぼめて、ちゅっと先端を弾く度に、それはますます膨張し、太陽神の姿を取り戻す。

高杉の奉仕の仕方は、当初のものとは違っていた。
銀八との愛欲を経験してから、自身の異常な好き者っぷりを隠さなくてもよくなったばかりか、
新しい嗜好まで発見した。
男の象徴を咥えることが、男の象徴に貫かれるのと同じくらい、悦びを得られるのだということ。
高杉の舌使いは、うんと貪欲になっていて、銀八すら、それには驚かされた。

「ううっ、いいぞ…」

気持ちよさが全然違う。もはや、文句のつけどころのない奉仕だった。

「俺のちンぽが、そんなに美味しいか?」
「ん…おい、し…」

陶酔の声音で言い、平気で卑猥な吸引音を立てて舐めていると、銀八の手が伸びてきて、
左の桜色の実りを弄ばれる。
左胸に広がる快感に耐えながら、必死に銀八を追い詰めようとする。

「ん…ん…ぁっ…んんン…ん…んん、ううっ?」

不意に、下からも痺れが突きぬけた。
密かに質量を帯びていた柔肉を、ふわりと握られ、はがゆい力加減で上下に擦られた。
汗ばんだ細腰が揺れ始める。
愛撫が強まっていくと、それに比例して、高杉も裸身をくねらせる。
犯す感覚と、犯される感覚が、同時に高杉の体内の血を沸き立たせ、高杉の舌は、
男の睾丸にまで至った。

「随分なスキモンだな、お前…人のこと言えた義理じゃねえが。どうせなら、
ケツの穴も舐めさせてやろうか?」
「ん…ん…せて…」
「ん?」
「舐めさせて…」

獣の本性に火をつけられた今の高杉は、何の躊躇もないらしかった。
銀八は腰を下ろし、自ら足を広げて、高杉と違い、色の綺麗な裏の洞を晒し出す。
入口に指を宛がって開いてみせ、


「ほら、舐めてみな」


甘く睨んできた。高杉は銀八の、そんな被虐的な部分にも惹かれていた。
シーツに胸をつけ、銀八の秘所にゆっくりと舌を伸ばし、一度、薄い肉の部分を弾いた。

「ん…」

一物を愛撫される時とは違う、掠れを帯びた、頼りない声が漏れる。
高杉は夢中になって舌を躍らせた。
穴の周囲を一頻り味わうと、柔らかい矛をくねらせて、中へと侵入する。
普段、空気にさらされない恥部まで刺激されると、さすがの彼も、“裏の顔”をさらさずにはいられないらしく、

「、ああ…っ、イイ…っ」

高杉と同類の、牝のような泣き声をあげ始める。
鮮烈な感覚に愛撫を勢いづかせる高杉の頭を掴み、

「お前のケツの穴も、舐めてやろう」

高杉の濃厚な愛撫で痺れた腰をあげ、高杉の後ろに回る。
四つん這いにさせて、指で入口を撫でると、唇を直につけ、舌を出した。

「ああんっ」

粘着性を帯びたそれは、指よりも嫌らしさが増す。
わざと品のない水音を立てられて、指にも勝る激しさで犯されると、
のたうちまわりたくなるほどの快感に襲われて、

「ああん、気持ち、イイっ」

高杉は何度も、かぶりを振る。
先刻大きな侵入者を受け入れたばかりのそこも、既に飢えている。
唇の押印が間断なく、高杉の白い肌に痕を残していく。


「もう…っ…もう、挿れてっ」


お願い、と涙を流しながら言う。高杉の陰花の周囲は、別の小さな花が、紅く咲き乱れていた。

「何をだ、晋助…俺の感じる言葉は、わかるな?」
「…銀八の、ちンぽ……しゃぶらせて…しゃぶりたいのっ」
「しつけのなってねえ晋助の尻の穴で、だろ?」

ほら、と片方の朶を叩かれる。


「晋助の、し、しつけのなってない穴で…しゃぶらせてっ」


哀訴の声。
理性の部屋に匿っている、品のかけらもない痴態を、これでもかと、晒したかった。
この男の前で、いつかもっと汚れた、動物的な行為をすることも、高杉は密かに望んでいた。

満足の笑みを浮かべた銀八は、高杉の程よい量感のそれを、より突きださせ、
尖った性刃で中心を串刺しにした。


「あああっっっ、か、かた、いっっ、かたいよぉっっ」


その時高杉の瞳には、何も映っていなかった。
天地がひっくり返ったように、全てが爽快で、悦楽の涙だけが止まらなかった。


「死にそうかっ?もっと啼けよっ。俺のちンぽでっ、お前のこの、っアバズレなケツの穴に、教育してやるっ」
「ああんっっ、、んっっ、」


ベッドが激しく唸り、揺れた。高杉の絶叫と、銀八の雄の喘ぎが交互に、時には協和する。


「あううっ、ああっっっ、気絶しちゃうっっ」
「っ、まだ寝るなよっ、そのまま仰向けになりなっ」


自らも快楽の熱に呑まれながら、繋がったまま高杉の身体を転がし、腹の上に覆いかぶさると、
突き穿ちの速度を早めた。
最も感じる部分に、銀八の熱い肉が体当たりした。


「ああああんっっ許してっ、許してっっ」
「ああっ、イイぜ、お前の中、熱くて…っ、イ、イっちまうっ」


喉を仰け反らせながら、倒れ込み、銀八は高杉の胸に自身の胸を当てる。より深い結合。


「ダメ、もうダメ、お腹、お腹破裂しちゃうっ」


散らばる閃光。それが完全に消滅し、高杉は意識を失う。
高くあげられた脚の付け根からは、おぞましい汚辱のしるしが流れ出ていた。

7.
目が覚めたのは数十分後。
チェックアウトの時間が迫っていて、シャワーを浴びる時間すらなかった。
銀八に急かされて、ふらふらの身体に鞭打って、着替えをし、慌ててホテルを出た。

外は冷え込んでいた。気温の落差が激しく、高杉は掌にひとつ、息を吐いた。

「あれからどうした?」
「ん?」
「消したのか、連絡先」

先日の別れ際のことを思い出した。高杉は俯いて、首を左右にふる。

「いつでも連絡くれたらいい。お前なら歓迎だ」
「…するか分からないよ」
「まだそんなこと言ってんのか」

呆れたように溜息をつかれる。だが、苦笑も織り交じっていた。

「所詮は他人同士じゃねえか。細けえこと気にすんな」
「そうだけど」
「言っとくが、俺の家庭は黙ってても崩壊するよ。目に見えてんだろ」

父親がこんなだし、と自虐の笑みをこぼされた。
あっけらかんとしている、ようには見えなかった。

「まあ時々は、今日みてえに暴れようぜ」

じゃあな、と軽く肩を叩かれた。
獣の本性を胸に覆い隠し、家庭へと戻って行く、一人の男の姿。

まるで自分のようだと。その背中が、焼き付いて離れなかった。


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