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□ラプンツェルRE-MIX
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 むかしむかし、ひとりの若い男が苦悩の日々を送っていた。彼には身重の美しい妻がいた。妻はハンサムな男にふさわしい大変美しい顔をしていたが、中身は意地が悪くワガママな非常に醜い女だった。毎日違った服が着たいと言い、家事もロクにせず、夫の帰りが遅いとヒステリーを起こし、稼ぎが少ないと夫をなじり、男は片時も気の休まることがなかった。その妻が最近になって新しいワガママを言い始めた。
「お隣の庭の、あの見事なラプンツェル(レタス)が食べたいわ。」
 それ自体は大したワガママとは言えないだろう。普通なら隣の家に頼んで分けてもらうか売ってもらえばいい話だ。しかし彼らの家の隣に住んでいるのは悪名高い恐ろしい魔女だったので、男はすっかりおじけづいた。
「それだけは勘弁してくれないか。それ以外の頼みなら、可愛いお前のためだ、何でも聞いてやる。」
「あなた、あの魔女が怖いのね。なんて弱虫な男なのかしら。生まれてくる赤ちゃんと私のことを本気で愛しているなら、そんなこと何でもないはずよ。ロクデナシ。」
 妻はしつこい女だった。来る日も来る日も口癖のように、
「あのラプンツェルが食べたいわ。なんておいしそうなのかしら。」
 横目で男を見ながら、聞こえよがしに何度も繰り返した。
「いい加減にしてくれ。あの畑の周りに張り巡らされたばか高い塀が見えないのか。あの魔女は畑の作物を誰にも盗られまいとあんなにも警戒している。俺があの塀を乗り越えようとすれば、直ちに魔女に見つかって殺されてしまうだろう。」
 男は妻に必死に訴えたのだが、
「臆病者。意気地なし。あんたみたいに情けない男くたばっちまえ。」
 妻は軽蔑の眼差しで冷たい言葉を浴びせかけるだけだった。
 それにしても妻のラプンツェルへの執着は異常なほどで、妻は日に日に青白く痩せ細っていった。
「あのラプンツェルが食べられないくらいなら、死んだ方がマシだわ。」
 もちろんレタスが食べられないからといって人間が死ぬわけが無いのだが、男はこんな悪魔のような女でも心から愛していたので、そして男自身、少々頭が足りなかったので、ついに塀を乗り越えラプンツェルを盗みに行った。無事ひとつ持って帰ると妻は大喜びし、早速サラダにしてあっという間にぺろりと平らげた。それは見た目を裏切らない素晴らしく美味なラプンツェルだった。男はこれでひと安心と胸を撫で下ろした。
 しかし彼の災厄はこれで終わらず、サラダを食べ終えた途端、強欲な美しい性悪女は、
「またあのラプンツェルが食べたいの。お願い、もう一度すぐ盗りに行って。」
 と盛んにせがみ出した。男が尻込みするとしまいにはウスノロ呼ばわりされて、妻に頭が上がらない男は仕方なくまた盗りに行くことを約束してしまった。
 翌日暗くなると、哀れな男は恐る恐る塀をよじ登り、隣の庭に押し入った。
 しかし何たることか、目の前にあの恐ろしい魔女が現れたではないか。男は恐怖で気も失わんばかりに縮み上がった。もちろん年老いた魔女はカンカンに怒っていた。
「貴様、誰の許可を得て人様の庭に勝手に侵入したんだい?この泥棒猫め!」
 男はペコペコ頭を下げて土下座して、必死で許しを請うた。
「身重の妻があなたの庭のラプンツェルをどうしても食べたい、食べられないと死んでしまうと言うので仕方なかったのです。生まれてくる赤ん坊のためにも、どうかお許し下さい。私達はどんな償いでもいたしましょう。」
 それを聞くと、魔女は男のハンサムな顔に目をとめてニヤリとした。
「そうかい、子供が生まれるんだね。そういうことならいくらでもラプンツェルを持って行くがいい。ただし、生まれてくる赤ん坊は私によこすんだ。私は長年子供が欲しくてたまらなかったんだよ。お前さんの子供ならさぞかし美しいだろうねぇ。安心おし、私はお前さん達みたいな愚かな若夫婦よりもまともで愛情深い親になるだろう。ずっと立派に子供を育て上げてみせるよ。」
 そして夫婦に女の子が生まれると、本当にすぐやって来て連れ去ってしまった。
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