美男子探偵蔵馬シリーズ(ミステリ)

□モデル系ホモカップル殺人事件 中編<美男子探偵蔵馬5>
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「ん〜、なんだかなぁ。ちょっと俺はやりきれないなぁ、こんなのって。」
 愛との過去を話し終えた裕也がひとり寂しげな背中を見せて部屋を立ち去った後、蔵馬は大きく伸びをしてぼやいた。
 ふわっ。
 人の髪弄りが好きな梢のせいで蔵馬の頭はすっかりエレガント系OLかキャバ嬢のようにされてしまったため、彼が頭を動かすたびにクルクルときれいに巻かれた髪が軽やかに揺れる。
「・・・というより。」
 飛影は冷ややかな視線を蔵馬の見事な巻き髪へ投げた。
「俺からすれば、男のくせにそんなゴテゴテと派手な頭をしているお前のほうがよっぽどやりきれないぞ。蔵馬、お前には男としてのプライドはないのか? ついに男捨てたのか?」
「待って、それ俺のせいじゃないでしょ! 梢さんの趣味で頼まれてやっただけなんです! 俺だって自分がしたくてこんな髪にしたんじゃありません!」
 切羽詰った声で蔵馬は叫んだ。
「お願いですからそんな言い方しないでください、飛影! 俺をこれ以上惨めな気持ちにさせないでください・・・。もう、俺限界です・・・。」
 今にも涙ぐみそうな表情で蔵馬が嘆くと、梢はポンポンと彼の肩を叩きながらにこやかに微笑んで言った。
「あら、その髪型とっても似合うわよ、探偵さん。こんなに巻き髪が嫌味なくぴったりくる人、私初めて見たわ。案外、女性より素敵かも。うふふ。」
「やめてください、梢さん! 俺はこんなの似合っても全然嬉しくないです! 俺、男ですよ!? 正直、恥ずかしいだけなんです・・・。」
 とうとう半分べそをかきつつも、蔵馬は必死の努力で気持ちを切り替えて話を強引に元に戻した。
「さっきの話なんですけど、裕也君も愛さんも過去の恋愛を引きずりすぎてて、見ててなんだか痛々しいんですよね。う〜ん・・・可哀想です・・・。」
 額に手をやり、蔵馬は憂鬱そうに眉をひそめた。
「どうしてもっとすっぱり割り切って、終わった恋愛を諦められないんでしょう? もっと気楽に考えれば、ふたりともきっと幸せになれたのに。あまりにもったいない! 悲劇です!」
 今日が初対面の彼らにここまで自分が感情移入してしまっているのを滑稽に思いながら、蔵馬はため息をついた。
「つくづく恋愛というのは諸刃の剣なんですよね。それもその人の人生で一度や二度しか経験できないような運命の大恋愛はもっと気軽な恋愛より思いが強い分、幸福にも不幸にもたった一瞬で簡単になってしまう。実に恐ろしいと思いませんか?」
「う〜ん、そんなものかしら。私にはよくわからないわ。」
 梢が細い首を傾げて戸惑った口振りで言うと、稲辺も丸太のようなどっしりした両腕を組んで、眉間に深い皺を寄せて考え込んだ。
「そんなもんなんですかねぇ。私なんかお恥ずかしいことに歳の割に恋愛経験が少なすぎて、いまいちピンときませんが。へぇ、運命の大恋愛が諸刃の剣ねぇ?」
「そんなものですよ。確かに大抵の人は自分で経験して初めてわかることではありますが、こればっかりはねぇ、自分でコントロールするのはほぼ不可能です。自分を変えるほどの大恋愛なんて望んで簡単にできるようなもんじゃありませんから。運とかタイミングとかあれこれ絡んでくるでしょうし。」
「ええ、もちろんそれはそうだろうけど・・・。」
 梢はまだ首を傾げて合点のいかない様子で考え込んでいる。
「あ、そういえば梢さんも恋愛経験は少ないほうでしたね。だったら実感が湧かないのも無理はないかな?」
 稲辺と梢の反応を見て、蔵馬は優しげに目を細め、微笑んだ。
「・・・まぁ、実は俺自身も決して恋愛が得意なタイプではないので、あまり人のことは言えません。そういえばなんとこの4人の中で飛影だけじゃないですか、現在付き合ってる恋人がいるのは?」
 唐突に蔵馬に話を振られ、以前からそういう話題を苦手としている飛影は露骨に迷惑そうな顔をした。
「おい、勝手に俺に振るなよ・・・。」
「あら、飛影君、彼女いたの? 飛影君ったら硬派な顔して、意外と隅に置けないわね。」
 好奇心丸出しにキラキラと目を輝かせて、梢が車椅子から勢いよく身を乗り出した。
「うるさい・・・。」
 飛影は思い切り梢を睨みつけたが、蔵馬はそんな彼の反応を見るのが楽しくて仕方ないらしく、嬉しそうに続けた。
「ええ、ええ。実は彼、俺達の仲間内ではとても有名なムッツリスケベなんですよ。意外でしょう? こう見えて女の子大好き人間です、女の子なしじゃ一日も生きていられません。特にちょっとぽっちゃりしたグラマーなタイプの女の子が彼のお気に入りみたいですね。一日一人は必ずナンパする大した凄腕の、ナンパの帝王と呼ばれています。」
「おい、蔵馬!! ふざけるな!! 死にたいのか、貴様!! 今すぐ殺してやる!!」
 飛影の本気の殺気を感じ、蔵馬は素早く防御の姿勢をとった。
「・・・ま、とにかくすごくラブラブな彼女がいるんですよ、彼。さっきのはほんの冗談ですが、これは事実です。」
「ほう、それはすごい。なかなかやりますな、飛影様。」
 稲辺もキラリと目を輝かせた。
「といってもつい最近付き合い始めたばかりなんですけど。やっぱり飛影にとっては初めての彼女だからかな、つい仕事より彼女を優先させがちなので、一応彼の上司である俺がなにかと困ってて、仕事に支障が・・・。」
 また調子に乗って勝手に話し始めた蔵馬の脇腹を、飛影は強い力でガツンと小突いた。
「黙れ、蔵馬! 俺のことは事件に関係ないだろ! 余計なことをしゃべるな!」
「きゃあ、なんだ最近付き合い始めたばかりなの? 素敵〜! ねぇ、私すっごく聞きたいわぁ、飛影君のコイバナ! で、彼女、どんな人なの?」
 蔵馬はゴホンともったいぶって咳払いしてから、やたら張り切って話し始めた。
「えっとですね〜、では彼女の特徴をごくごく簡単にまとめさせて頂きますと、まず彼女のルックスはブタゴリラ、性格は極悪非道、血も涙もない地獄の死者。頭から生えた長い角と裂けた口からはみでている恐ろしい牙がチャームポイントです。趣味はもちろん弱い者いじめ、職業は悪徳弁護士。あと年齢が飛影より10も年上ですね。」
 梢は切れ長の目を丸くして、顔の前で何度か軽く手を叩いた。
「わぁ、年上なんだぁ! しかも弁護士なの? すご〜い!」
「すごくはないでしょう。どうせ得意の弱い者いじめをして、ずる賢く小金を稼いでるだけです。あ、それからあの人、女のフリしてるけど本当は男ですよ。だって女にしては体つきゴツいし性格乱暴だし怪力だしヒゲ生えてるし。ね? 正体バレバレですって。」
 そこで蔵馬は大げさに目を見開いて、わざと驚いた表情を作った。
「ってことは、実は飛影ってゲイだったんですね。なんだ、飛影も樹さんや仙水さんの仲間だったんですか。今、初めて気付きました。びっくりです!」
「よし、死ね、蔵馬!!」
 ゴン!!
 怒った飛影にひどく頭をぶん殴られ、やっと蔵馬は口をつぐんだ。
「あ、そうそう。探偵さん・・・。」
 梢はニコニコととびきりの愛らしい笑顔で蔵馬に微笑みかけた。
「最後にツインテールをやってみたいんだけど、いいかしら? きっとものすごく可愛いわよ。」
「すみません。それだけは勘弁してください。毛根もダブルで痛みますし、嫌です。」
 蔵馬は、さすがに今度はきっぱりと首を横に振った。
「大丈夫よ。髪を強く引っ張らないよう、ちゃんと気をつけて結ぶから。」
「それでもツインテールは無理です。俺にも恥をかく限度ってものがあるので・・・。」
「え〜っ、なんで!? 絶対似合うのに、がっかりだわ!」
 梢はしょんぼりと悲しそうな表情で嘆いた。
「じゃ、その代わりにカチューシャつけてもいい? 本物のパールがついたすっごくきれいなのを私持ってるの。ね? それならいいでしょ? カチューシャくらいなら毛根にダメージ与えないし。」
「・・・はい。」
 なぜか梢の頼みを断れない蔵馬はしぶしぶ頷き、梢は大喜びで自分の部屋へお気に入りのパールのカチューシャを取りに行った。
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