美男子探偵蔵馬シリーズ(ミステリ)

□モデル系ホモカップル殺人事件 中編<美男子探偵蔵馬5>
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 翌日、蔵馬と飛影のふたりが再び使用人の稲辺に案内されて樹の家の中へ通されると、あいにく樹と秘書の田中は仕事で外出中で、広い家の中には梢と医者の神谷、稲辺、もともと死んだ仙水の客だった刃霧と天沼のふたり組、それに神谷を見張っている刑事がひとりいた。
「見張りの刑事が始終家の中をウロチョロしていて目障りですが、まぁ無駄に賑わっていた事件当日と違って基本的にはひとりだけですから、なんとか我慢していますよ。」
 ブツブツと不平をこぼしながら、稲辺はさっそくふたりを梢の部屋へ案内した。
「おふたりに来て頂くようになって梢様は大変喜んでいらっしゃいまして、今日もおふたりがおみえになったらすぐに知らせてくれと言われています。フフ、久しぶりに気が合いそうなお客様がみえて、すっかりはしゃいでるんですよ。梢様もあれで結構子供っぽくて・・・。」
「そういえば今日は刃霧君と天沼君がいるんですよね? 昨日はふたりが遅くまで帰らなかったせいで俺は外でちょっと通りすがっただけでしたから、今日こそちゃんとお会いして話を聞かせて頂きたいものです。」
 蔵馬が言うと、稲辺はフンと不満そうに低い鼻を鳴らした。
「あのふたりと話を? やめておいたほうがいいですよ。時間の無駄です。」
「えっ、無駄? どういうことですか?」
「無駄というか・・・ストレスですね。あのふたりと話そうとすると私はいつもストレスで頭がおかしくなりそうになります。」
「はぁ。」
「刃霧って若い男はとにかくとんでもなく無口でツンツンして愛想がないので、せっかくこちらから話しかけてもほとんどの場合は冷たく無視されるだけです。それも私だけにならともかく、なんとこの家の主人である樹様と梢様に対しても同じ態度なんですよ。まったく誰のおかげで短い間にしろ自分がこの家にタダで泊まらせてもらえてるのか、全然わかってないんでしょうね。あんな奴、早く追い出したくていつも私はムズムズしてますよ。」
「・・・ようするに飛影と同じタイプですか。なるほど。」
「それから天沼というガキは、こっちは刃霧とは逆にむしろ非常におしゃべりな性質です。こっちが放っておくと永遠にしゃべり続けるので、黙らせるのに骨が折れるくらいです。」
「ああ、確かにあの子はそんな感じですよね。いいじゃないですか。おしゃべりな子供、可愛くて。」
「いえ、まったく。というのもあの子の場合、無邪気で子供らしいおしゃべりというより単に口が減らないだけの、可愛げのまったくない反抗期まっさかりの悪ガキです。確かに私でもときどきちょっと目を見張るくらい頭の回転の速い、賢い子供ではありますが、そのせいでなにかというと大人を馬鹿にしてからかうんです。探偵様もご存知だと思いますが、そういうふざけた真似が面白くて仕方ない年頃なんですね。それでまぁ、私も子供のやることだと思ってなるべく我慢するよう心掛けてはいますが、それにしても腹が立ちますよ。このままじゃそのうちいつか、プツンといってしまいそうです。」
「はぁ。稲辺さん、ご苦労されていますね。」
 おそらくあのふたりのことでこれまで随分多く嫌な思いをした経験があるのだろう、使用人らしい静かな足取りでふたりの前を歩く稲辺は怒ったように広い肩をグッといからせている。あのふたり組とは昨日ひと言ふた言言葉を交わしただけの蔵馬も、小学生ならではの強烈な無遠慮さが最も嫌な形で炸裂していた天沼のひどい毒舌を思い出し、思わず稲辺に深く同情してしまった。
 トン、トン。
「梢様。」
 二階の梢の部屋をノックし、稲辺は中に向かって礼儀正しく声をかけた。
「探偵の蔵馬様と助手の飛影様がお見えになっています。」
「ああ、稲辺、えっと、今は・・・。」
 慌てたような梢の声と、ガタガタ、バサバサとなにやら騒がしい物音が部屋の中から聞こえてきた。
「・・・わかったわ。どうぞ、お通しして。」
「失礼します。」
 お金持ちのお嬢様らしい育ちのよさをしのばせる上品で女性らしい内装に彩られた梢の部屋へ入ると、なんと部屋の奥に見える梢のベッドの上に座っている梢のそばに、先に医師の神谷がいた。神谷は梢の体に寄り添うように、ぴったりと彼女に接近した位置で背もたれのない椅子に座っていた。
「なんだ、君達か。おはよう。また会えて嬉しいよ。」
 ど変態キャラな素顔を見事に隠し切ったハンサムな顔に知的な微笑を湛え、神谷は男っぷりのいいほがらかな口調でふたりに挨拶した。
「ああ、神谷先生。おはようございます。昨日は長い時間お話を聞かせて頂いてありがとうございました。」
「いや、私も四六時中うっとうしい刑事に見張られていて気分が悪いから、誰か話相手が欲しいと思っていたところだったんだ。ちょうど良かったよ。君はなかなか聞き上手で話していて楽しい、実に感じのいい男だからね。正直なところ、私は君のことがすっかり気に入ってしまったんだ。ぜひまた時間のあるときに話をしに来てもらいたいね。」
 たった今梢の診察を終えたところらしい神谷は、持ってきた自分の鞄についさっき使ったばかりの器具類を丁寧に詰めながら、陽気な口振りで答えた。
「ええ。・・・梢さん、おはようございます。体の具合はどうですか?」
 何気なく挨拶の言葉を口にしながら梢のほうを向いた蔵馬は、驚きのあまりギョッと目を剥いた。
「こ、梢さん・・・?」
「ごめんなさい、お恥ずかしいところをお見せして。すぐにちゃんとした服に着替えて行くので、ちょっと先にリビングで待ってていただけません? 稲辺、おふたりにお茶とお菓子をお出ししてね。」
 ベッドの上に上半身だけ起こした梢は、頬を少女のように赤く染めて、3人が入ってくるまで診察のため半分脱いでいたらしい乱れたガウンの前をしっかりと掻き合わせた。
 さっき蔵馬が彼女のほうへ振り向いたとき・・・ベッドの上で上半身をかがませた姿勢をとって座っていた彼女のガウンの襟元から、華奢な体型の割にふっくらとした、形のよい乳房が、大胆にほぼすっかり覗いて見えていた。
「それじゃ、私はこのへんで。探偵さん、またぜひお会いしましょう。梢さんもお大事に。こういうときですし、くれぐれも無理は禁物ですよ。」
「ええ、神谷先生・・・。」
 色白の頬を上気させ、ぽうっとした表情で神谷を見送る梢の様子を見て、蔵馬と飛影は思わず顔を見合わせた。 
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