美男子探偵蔵馬シリーズ(ミステリ)

□モデル系ホモカップル殺人事件 中編<美男子探偵蔵馬5>
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「なんですか、あれ。」
 両方の頬を大きく膨らませた露骨に面白くなさそうな顔をして、梢の部屋を退出した、いや無理矢理追い出されてしまった蔵馬は、飛影と並んで長い廊下をトボトボ歩きながら、不服そうに言った。
「ん? ああ、あの樹そっくりの背の高い女のことか? それともあの気取った眼鏡の医者のことか? 確かにさっきは俺も驚いた。あの神谷って医者、あの女にだけは本当に受けがいいみたいだな。」
 飛影の冷静な言葉に蔵馬はいよいよ怒りを爆発させた。
「受けがいいどころか! 飛影、見ました? あの神谷を見送るときの梢さんの顔! ほっぺたクレヨンでグリグリ塗りつぶしたみたいな可愛いピンクにしちゃって、神谷の後ろ姿に見とれて今にもヨダレ垂らしそうな嬉しそうな顔でボーッとしちゃって、あれじゃまるで恋する乙女じゃないですか! まったく梢さんもいい歳して、見てるこっちが恥ずかしくなりますよ!」
 飛影はフンと唇を曲げ、嘲るような薄笑いを浮かべた。
「実際、あの医者に惚れてるんじゃないか。神谷のことは俺も嫌いだが、確かに顔は悪くないし医者なら頭もいいのだろうし、スマートな容姿と巧みな口先で女騙すのが上手そうだ。男に嫌われて女に好かれるタイプの男だな、あれは。」
「くっそ〜!! 男に対する態度と女性に対する態度が180度違うんですよ、あいつ! 俺の前じゃただの超絶変態ど助平最低ひきこもり野郎のくせに、梢さんと話すときはすっかり親切なイケメン紳士気取りで! クソ! クソ!」
 蔵馬はきれいな顔を上向かせて、犬のようにギャンギャンうるさく吠えた。
「うわぁ、畜生! ああ、腹立つ! 梢さんも、よりによってあんなわかりやすい性悪男に騙されるなんて、情けない! ただでさえ美人でお金持ちで悪い男に狙われやすいんだから、もっと大人の女性としてしっかりしてもらわないと! あのお人好しでおっとりして女性らしい性格は素敵だと思いますけど、ちょっとは冷静に男を見る目を養わなきゃこの先マズいですよ!」
 飛影は意外そうな目付きで蔵馬の顔をジロジロと見やった。
「蔵馬、なんだかお前、やけに必死じゃないか?」
「いえ、別に! 俺はただムカついてるだけですよ? なにか文句あります?」
 珍しく八つ当たりめいた蔵馬の返事を聞き、飛影はどこか意地悪く見える表情でフッと笑った。
「ふぅん。蔵馬、さてはお前・・・。」
「はい!? なんですか!?」
 乱暴な怒りに目を吊り上げた蔵馬は、なぜか喧嘩腰の鋭い口調で尋ねながら、飛影のほうへ素早く振り向いた。
「・・・お前、あの梢って女に惚れてるのか?」
 ブッ。
 蔵馬は噴き出した。
「な、なに馬鹿なこと言ってるんですか、飛影!!」
 ゲホゲホと胸を叩いて激しく咳き込みながら、蔵馬は焦って弁解した。
「確かにあんな素晴らしい美人は他にいませんし、上品で明るくてとても魅力的な女性だとは思いますが、だからってそんな! 惚れてるだなんて! とんでもない!」
「ふぅん。お前、意外と年上好きだったんだな。あの女、お前よりずっと年上じゃないか。実は年齢差を気にしないタイプか。」
 飛影は勝手に納得した顔で深く頷いた。
「と、年上好きはあなたでしょ、飛影! 勝手に自分と一緒にしないでください! あのねぇ、俺は彼女のことは素敵な女性として尊敬はしてますが、決して惚れてなんかいませんよ! ただあんなきれいで人柄もいい方が、神谷みたいな人でなしのクソ外道に騙されてるのが口惜しいだけで・・・。」
「ようするに嫉妬だろ? お前は神谷にあの女をとられてムカついてるんだ。」
「違います! やめてください、変な勘違いするの!」
「探偵が事件の関係者に惚れちゃいかんだろ。状況を公平に判断できなくなって、事件解決の妨げになる。」
「あなただって躯の事件のときそうだったでしょうが! あのときは次から次へとロクでもない面倒ばっか起こして散々俺に迷惑かけたくせに!」
 飛影はニヤリと笑った。
「フン、やっと本音が出たようだな。お前、やっぱりあの女に惚れてるのか。」
「あ〜もう!! 違いますってば!!!!」
 今にも火が出そうに顔を真っ赤にした蔵馬は、大声で叫んだ。
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