美男子探偵蔵馬シリーズ(ミステリ)

□モデル系ホモカップル殺人事件 中編<美男子探偵蔵馬5>
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「あんなヤクザ男に梢さんのようなちゃんとした女性がのぼせ上がっているのが俺は許せないだけです。引きこもりの冷血漢のくせに梢さんの前でだけ猫かぶって、ただの女たらしじゃないですか、あのヤブ医者・・・。」
 蔵馬は困惑したようにうつむいて、ブツブツと小声でつぶやいた。
「いい歳して熱烈なブラコンやってる梢を、果たしてちゃんとした女などと呼んでいいのか俺には非常に疑問だが。それにそもそも、どう見ても神谷より梢のほうがより重度の引きこもりじゃないか?」
「・・・梢さんは体が弱いから仕方ないんです。多分。」
「それも怪しいもんだ。ところで神谷はヤブ医者なのか? あいつの性格が悪いのはよくわかったが、少なくとも医者としては有能だって誰かが言ってたような気がするぞ。」
「ふぅん、神谷先生が有能? ・・・それこそどうだか。」
 蔵馬は口の端を歪め、ギラリと鋭く光る意地悪そうな目付きになった。
「もし本当にあの男がそんなに有能なら、いつまでもこんなとこでくすぶってないで、もっと自分で開業するとか大きな病院に勤めて出世コースを邁進するとかしてるはずじゃないですか。あいつ口が上手いから、きっとわざとそうやって自分で自分のこと必死に有能アピールしてるんですよ。それを利用して美人な女性患者の梢さんの気を引いたり、雇い主の樹さん達に信用されようとしてるんじゃないですか。ようするに、そういうこずるいパフォーマンスしか能がないペテン師なんです、あの人は。」
「・・・うん、それもそうだな。おそらく金持ちの家の専属医としてのここの給料はそれなりにいいだろうが、もし本当に奴がかなり腕のいい医者なら、もっとがっぽり稼ぐ道が他にいくらでもありそうだ。」
 飛影も首を傾げた。
「バリバリ稼ぐよりなるべく楽をしたい年頃の年寄りならともかく・・・。あの若さで、特に体力や健康に問題もなさそうなのに、地味な個人の専属医なんてしてるのは確かに少々不自然だ。向上心がなさすぎる。お前の言う通り、本当にヤブ医者でよそでは雇ってもらえないか、それかなにか人には言えないようなワケありだったりするかもな。」
「でしょ? たとえばなにか犯罪を犯した経験があるとか、なにかものすごい過去があるとか。一応調べてみる価値はありそうですね。あんな胡散臭い変態男、ちょっと叩けばバサバサとホコリが出ること間違いなしです。どうせもう警察で調べはついてるだろうし、知り合いの刑事に軽く聞いておきますよ。直接神谷先生本人に訊いても、もしなんらかの自分に都合の悪い事情があるなら、あの人も本当のことは俺達に隠して決してしゃべらないでしょうから。」
 蔵馬はさっそくポケットから手帳を取り出して、サラサラと簡単な覚え書きをしたためた。
「ああ、そうだ、蔵馬。俺が思うに・・・。」
 ふと思い出したように飛影が真顔で言い出した。
「神谷が女たらしというのも、ちょっと違うんじゃないか? 確かにあの男は女の前じゃ自分の変態な本性隠して猫かぶってるようだが、だからって本人は誰か女を騙して付き合いたいなんて気は全然ないように俺には思える。あいつの場合、特に意図もなく女の前でいい男ぶるのが癖になってるだけなんじゃないか? いわばほとんど反射神経のような・・・。」
「はぁ!? わかってないですね、飛影!!」
 飛影の言葉に蔵馬はムキになって反論した。
「いくらあの男が女性と付き合うのを面倒がっているといっても、梢さんは特別ですよ! あんなに美しくて素晴らしい女性、そこらを這いずり回って一生懸命探したってまず出会えないじゃないですか! 神谷は梢さんのこと絶対狙ってるに決まってます! 俺は断言します! 梢さんは狙われてます!」
 飛影はチラと横目で蔵馬を見やった。
「蔵馬・・・お前、やっぱりあの女に惚れてるだろ?」
「いいえ!! まったく!!」
 蔵馬は大げさに首を振って否定した。
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