そのまんま飛躯二次創作

□1.身長
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 実は最近身長が気になって仕方ない。もちろん前から気になってはいる・・・昔から「チビ」と言われるのには我慢ならない。小柄なのは事実だ。だが図体ばかりデカくてバカな奴、弱い奴ほどそんなことを言ってくるものだ。それに魔族の人生は長い、俺はまだ成長期真っ只中だ・・・そう自分に言い聞かせてきた。
 しかし誰かと比べて、負けたくない、あいつよりは大きくなりたい、などと思ったことはなかったのだが。

 今、躯に見下ろされるのが我慢ならない。もちろんこれから俺の背が伸びて、奴を超す可能性は十分ある。奴だって女にしても小柄だ。今だってそう違いはない。でも「いつか」じゃ困る、今すぐ奴を超したい。せめて同じ目線で話せるようになりたい。
 毎日奴に会う度に目測で背を比べ、落胆する。そんな自分があまりに愚かしく、うんざりしている。一体なぜ、こんなくだらないことに拘っているんだ俺は。
 考えてもみろ、あいつと俺にどれだけ年齢の開きがあると思う?あいつは大昔に成長期を終えた、言葉は悪いがババアだ。そんな奴と比べるのが大体間違ってる。あいつが身近にいる唯一の女だから負けたくないのか?そうかもな・・・。

「よう、飛影。」
 そんなことを考えていると、百足の薄気味悪い廊下で当の本人に偶然会った。相変わらず俺よりほんの少しだが目線が高い。実力差、年齢差(これは無理だ)、身長差・・・奴と俺との、この差はいつ縮まる?なぜか俺は焦っている。
「お前、最近やけにシケた面してないか?何かあったのか?」
 俺を気遣っている、ことはわかる。ありがたくも思う。なのに俺は奴の言葉、態度が気に入らない。まるでガキを相手にしてるみたいじゃないか。俺がおかしいのか、そう感じてしまう。いらだって、つい冷たい言葉を口にしてしまう。
「いい加減ガキ扱いするのはよせ。」
 奴は一瞬驚いた顔をして・・・笑い出しやがった!!
「怖い顔するなよ。俺からしたらお前はガキだろ?」
 ・・・俺は切れた。
 
 その後、俺は奴を避けている。今思うと情けないのだが、確か俺は「貴様いい加減にしろ」とか怒鳴った・・・と思う。実は逆上していてあまり覚えていない。ガキと言われても仕方ない振る舞いだった。ガキなのは身長や年齢だけじゃなく、俺の内面だったと思い知らされる。奴に合わせる顔がない。
 すべて忘れてしまいたくて、闘技室で黒龍波を打ちまくった。身体が限界まで疲労すれば、悩んでいる余裕もなくなる。考えずに済む。しかもこの技は睡眠導入剤としても完全に有効だ。もう限界に近づいているのがわかる。どうしようもなく眠い・・・ぐったりと壁際に座り込んだ。
 その時奴がこっちに向かってくるのが見えた。なんとか顔を合わせず済むよう慌てて闘技室を出ようとしたが、生憎狭い部屋だったのでもう目の前にいた。奴はいつになく真剣な顔つきで俺の前に立ち、俺をまっすぐ見た。
「なぁ飛影、こないだは悪かったな。」
 ・・・何を言ってるんだ。悪かったのは俺のほうだ。
「お前がそんな気を悪くするとは思わなかったんだ。軽い気持ちで、何も考えず言ってしまった。」
 ・・・そんな風に言われると困る。お前に悪気がなかったことは俺もわかってたし、どう考えても俺のほうが悪い。自分が恥ずかしくなる。
「・・・俺が悪かった。お前にガキって言われても仕方ない・・・。」
 俺はやっとモゴモゴと呟いた。こういう時いつも、思うように言葉が出ない。奴の目を見ることさえ出来ない。
「飛影、確かにお前は俺よりずっと若いけどな・・・俺がいちばん信頼してるのはお前だぜ?」
 そうサラリと言って、奴は悠然と微笑んだ。
 きれいな笑みだった。他のすべてがどうでも良くなってしまうような。俺はしばらく見とれていたが、目蓋が落ちてくるのに抵抗できなかった・・・深い眠りに落ちながら気づく。
 ・・・俺はこいつに男として認めてもらいたくて、あんなに背を気にしていたらしい。

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