そのまんま飛躯二次創作

□4.戸惑い
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 ・・・そりゃ俺はこういったことには無関心だし相当鈍いだろう。だけどさすがにわかってきた、あいつが俺に惚れていることを。この俺でも気付くほどあのガキの振る舞いは大胆になった。それ自体は何でもない、何百年も生きてきてこうしたことは今までも度々あった。問題は俺が以前の俺でないということだ。

 あのガキは一体幾つ俺と離れているんだろう。数百年、もう自分でも正確にはわからなくなった。俺にとっちゃあいつは生まれたての赤ん坊だ。赤ん坊は赤ん坊らしく似合いの年頃の女とでも遊んでればいいものを、なんでわざわざ俺に惚れるんだ。おそらくここに女が俺しかいないのが悪かったんだろう。不憫な奴め。こっちこそいい迷惑だ。
 あいつの気持ちに気づいたとき、率直なところ「マジかよ、困ったな。」だった。ああそうだ、俺は困っている。今まで俺を口説こうとした男は皆追い出すか殺すかしてきた。だが俺はあいつを追い出したくないし殺したくもない。それどころか俺はあいつにずっと側にいてほしい。正直言ってあいつのことがたまらなく好きだ。だけどそれは男だの女だのといったものでは絶対にない。そんなものであってたまるか。

 俺は自分が女に生まれたことを嫌悪している。憎んでいるとさえ言ってもいい。女に生まれなければあんなおぞましい目に遭わずに済んだ。こんなに長い年月苦しまないで済んだ。女だから弱いと思われるのも、男達の好奇の目にさらされるのも、嫌で仕方ない。だからずっと姿を隠し男のフリを続けてきた。それに自分が女であることを忘れることでしか、自分を支えられなかった。
 そんなわけであいつの想いは受け入れられない。あいつはわかってくれるだろうか。何度かあいつを説得しようと思ったことはある。もっとずっと若いちゃんとした女を探せよ、と。なにもこんな半身爛れたババァ相手にしなくてもいいだろ、と。だけど俺はあいつを知りすぎている。あいつがこうと決めたら何を言っても聞きやしない。一歩も引かないんだ。一本気で融通のきかない頑固者だ。そんな説得したって火に油を注ぐだけの逆効果だとすぐ思いとどまった。

 俺はあいつを恐れている。あいつの言葉はナイフみたいに俺を突き刺す、毛布みたいに俺を優しく包み込む。時には美酒みたいに俺を酔わす。あいつの目は俺を身動きとれなくする。あいつの声に俺は一心に耳を傾ける。あいつより俺は何百年も年上なのに、あいつの前では俺はまるでちっぽけな赤子だ。あいつがその気になれば、俺の手足を折ることも、命を奪うことも、いともたやすいだろう。
 そんな目で俺を見ないでくれ。俺は自分が女であることが憎いんだ。お前と一緒にいると、いつか自分がほんとに女になってしまいそうで怖い。お前は俺を揺さぶる、俺を破壊しようとする。お前は徐々に俺を侵食していった。俺はあいつを避け始めた。あいつとは最低限しか接しないよう心掛けた。だけど今度はその短い瞬間を心待ちにし支えにしている自分がいて、ああ、まるきり矛盾している。俺は自分を持て余す。

 あいつを追い出そうとした、うまく言い訳をつけて。お前の為だと俺は言った。それは事実だろう、でも本当はむしろ俺自身の為だった。自分を守る為に身を切られる思いで、俺はあいつを追い出そうとした。だけどあいつは出て行かなかった。それどころか「お前のいる所に俺はいたい。」などと抜かしやがった。馬鹿につける薬はないと俺は悟った。
 あとはあいつを殺すしかない。だがそれが出来ないことを俺はよく知っている。もしあいつを殺したら、俺はその手で自分も殺してしまうだろう。あいつから逃げ出そうともがけばもがくほど、俺は深みにはまっていく。

 近頃あいつは図に乗ってきた。パトロール報告だと言って俺の部屋に来ては長いこと居座り出て行かない。追い出そうとしても右から左に受け流し、大きな目で俺をじっと見つめる。俺は苦しくて息が出来なくなる。核がざわついてどうしようもない。パトロール報告をやめさせようかと毎日真剣に考えている。だけど俺は毎日あいつに会いたくて、結局出来ないでいる。そうだ俺が悪いんだ。俺はあいつにすっかり足もと見られている。
 もし俺が、お前と同じ時代に生まれて、あんな異常でない環境で育っていたら、俺達は恋人同士であったかもしれない。だが俺達にそんな日は決して来ないとわかっている。

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