そのまんま飛躯二次創作

□6.嫉妬
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 その噂を初めて聞いたのは、確か奇淋からだった。
「飛影が若い女と連れ立って魔界のあちこちをほっつき歩いているのが頻繁に目撃されているそうです。」
 奇淋は俺の目をじっと見据えて報告してきやがった。
「・・・そんなどうでもいい情報はいらん。お前も暇だな。あいつだってもういい歳だし女のひとりやふたりいたっておかしくないだろう。」
 俺が切り捨てると奇淋の顔が気のせいかほころんだ。
「おっしゃる通りです。あいつも隅に置けませんな。失礼しました。」
 そう言って満足げに下がって行った。

 飛影にはまったく腹が立つ。相変わらず俺の部屋に毎日居座りおって、油断すると寝てしまい朝まで起きやしない。こいつの図々しさには呆れるばかりだ。こんなクソガキに女がいるなんて、笑わせるぜ。・・・でもって今奴は俺の隣で俺のベッドで安眠中だ。
「起きろ。起きろったら。」
 ・・・駄目だ、ビクともしない。仕方ないから腹に一発くらわせた。
「ぐっ・・・何するんだ。」
 腹を押さえてのたうち回るあいつを俺は面白く眺めた。
「いい気味だ。自分の部屋で寝ろって俺は何度も言ってるだろうが。さっさと出て行け。」
 愉快な気持ちで笑っている俺を、あいつはうらめしそうに睨んだ。
「俺はここがいいんだ。いちいちつっかかるな。」
「ああ、まるで赤ん坊だな。お母さんと一緒に寝たいのか。」
「そんなわけないだろう。俺は何もしないし文句言うな。」
「まぁ何かしたけりゃよその女の部屋に行くよな。」
 俺は少し険のある言い方をしたかもしれない。
「・・・何だそれは。」
 飛影がまじまじと俺の目を見るので狼狽した。
「・・・いやお前、女がいるんだろ?随分噂になってるぜ。」
「いるわけないだろう。何だそのデタラメな噂は。誰から聞いた。」
「奇淋と・・・あと他にも何人か同じようなこと言ってたな。お前が女連れで魔界中うろちょろしてるってさ。隠すようなことじゃないだろ。お前が何人女作ろうとお前の勝手だ。」
 しばし奴は考え込んでいた。
「・・・ああ。」
 ようやく合点がいったという顔をした。
「今雪菜が魔界に来てて俺が案内役をさせられてる。あいつはまだ魔界をロクに見たことがないらしい。どこまで世間知らずなんだか。いい迷惑だが無理矢理引き受けさせられてあちこち連れまわされてる。」
「・・・そうか。」
 さり気なく俺は飛影に背を向けた。
「・・・おい。」
 飛影に呼ばれたが当然無視を決め込んだ。
「こっち向け。」
 向かねぇよ、ボケ。
「躯。」
 さらに無視していると無理矢理肩を掴まれてご対面させられた。
「なんて顔してるんだ、お前。」
 どんな顔だ、知るか。
 飛影は馬鹿丸出しのポカンとした顔で俺をしばらく凝視していたが、ふいににやりと笑った。
「で、お前妬いてたのか。」
「誰がお前なんかに妬くかよ、ガキ。」
「・・・そうか。まぁ俺はお前が妬いてくれたのなら嬉しいがな。嫉妬なんてするのは俺だけかと思ってたぜ。俺なんてもうずっとそれで毎日苦労し通しだ。」
 そう言って本当にえらい嬉しそうな顔でにやにや笑っているので、俺ははらわたが煮え繰り返る思いだった。
「だから違うって言ってるだろ!笑うな!」
 俺が怒鳴ると奴はからかうように俺を見た。
「俺がお前以外の女に興味ないことくらい、いい加減わかってくれ。お前に手出さないのもお前が嫌がるからで・・・。」
 腹にもう一発お見舞いしたので奴は再び腹を抱えて丸くなった。
「いちいち殴るな!お前と一緒にいるといつか本当に殺されそうだ。」
「俺がそういうの嫌だって何度も言ってるのに、お前こそいい加減わかれよ。」
「・・・ああ、わかってる。俺はそれでもいいんだ。」
 奴はそう言うと突然俺を後ろから抱きしめた。
「おい、放せ!ちっともわかってないじゃないか!」
 俺が暴れても奴はますます強く抱くだけだった。
「わかってる。」
 そう言って俺の肩に頭をうずめ黙りこくるから、俺はムカっ腹が立って仕方なかった。
 その実、俺はどうしようもなく幸せだった。

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