そのまんま飛躯二次創作

□7.衝動
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 すやすや眠る飛影の寝顔を、躯は穏やかな表情で眺めていた。躯のベッドで、隣で寝ているからって、もちろん何かあったわけでは全然ない。ただふたりは仲がいいだけ、似たもの同士で気が合う、それだけのことだ。今日だって躯は何度も飛影が眠ってしまう前に追い出そうとして、失敗したのだ。ただ、それだけのこと。
 ふいに躯はくすくすと小声で笑い出した。飛影の寝顔があんまりあどけなくて、なんだかおかしい。いつもはあんなに生意気でいばっていて憎らしいのに、これじゃまるで天使だ。その愛らしい寝顔を見ていると、核がじんわりと暖かく感じる。そのくせ妙に切なくて、変な感じだ。
 つい飛影の髪に手を伸ばし触れてみる。かたい髪。ゴワゴワしている。そんなだからこんな突っ立ってるんだな。ちっとも心地いい感触ではないのに、ずっと触れていたい。
 次に飛影の頬に触れようとして、ぴたりと手を止めた。・・・なにやってるんだ、俺は。飛影には「俺に触るな」なんて偉そうに言って、あいつもそれを守ろうとしてくれてるのに。自分がこれじゃ・・・。自分に呆れ、そして焦る。
 突然飛影が彼女の方に寝返りを打った。パタリと彼の手が彼女の体の上に落ちた。おいおい、勘弁しろよ・・・そう心でつぶやきながら彼の腕をとり放り出そうとした。暖かい感触に、核が高鳴った。くっつきそうなほど近くなった彼の顔を見つめ、思わず彼の手をぎゅっと握った。・・・駄目だ俺、本当にどうかしてる・・・。

 いっそ肉体なんてなくなってしまえばいい。そんなものがあるから話がややこしくなる。俺の体はガキの頃に真っ黒に汚れてしまった。どんなに一生懸命洗ってもどす黒いまま、もう元には戻らない。そうだ、魂だけがあればいい。ふたりを隔てるものがなくなって俺達はひとつになれる。俺はこいつとひとつになりたい。俺のすべてがこいつに溶け込んでしまえばいい。つながりたい。今の俺達の不自然な遠慮が嫌で仕方ないんだ。なんだかよそよそしい、ずっとそうだ、いつもそう感じてる。俺達がこんな不自由な理由はわかってる。肉体のせい、俺のせい。

 唐突にかすかなうなり声がして、飛影が目を覚ました。握っていた手を慌てて放そうとしたが間に合わず、逆にもっと強く握り返された。真剣な鋭い目でじっと彼女を見つめてくる。黙って至近距離で見つめられるのは相当苦しい。
「躯。」
 慣れ親しんだ声で呼びかけられて、気が遠くなる。どうしてこうなった?いつから?気付いたときにはもうハマってた。
「何だ?」
 応える自分の声が、まるで自分の声じゃないように聞こえる。甘ったるくて、気持ち悪いくらい女々しい。こんな俺、嫌なんだ。こんなの俺じゃない。これじゃまるで、恋する乙女だ。・・・恋?冗談じゃない。
「俺はお前に出会って幸せだ。」
 穏やかに微笑む飛影の言葉を、信じられない気持ちで聞いた。幸せ?俺に出会って?絶対頭おかしいだろ。俺はそんなじゃない。俺は奪って破壊し尽くすだけの化け物で・・・そんなんじゃないんだ。そりゃ俺はお前に出会って幸せだ。だけどお前は・・・。
「俺はお前を苦しめていないのか?傷つけていないのか?」
 そうささやいてみる。だって、そうだろ?
「・・・いや、お前は俺にすべてを与えてくれる。」
 そう言って、奴は少し笑った。そして、再び目を閉じた。
「待てよ。」
 それから俺がしたことは・・・よくわからない。なぜあんなことをしてしまったのか。衝動、そうとしか説明がつかない。理屈が合わない。ほとんど無意識に、体が動いていた。
 俺は奴の首に腕を回して顔を近づけ・・・口付けた。

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