そのまんま飛躯二次創作

□8.武装解除
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 あれから飛影とは口をきいてない。部屋にも当分来るなと言ってある。俺だって何が何やらさっぱりわからない。だいたいあいつがわからずやなのが悪い。
「物のはずみだ。」
 俺が何度そう言っても、
「そんな物のはずみがあるか。」
 と強情を張り納得してくれない。頭に来た。埒があかないから絶交してやった。

 あれから一週間経つが、俺の頭の整理はいっこうに進まない。何であんなことしちゃったかな俺・・・気がふれたとしか思えない。たまに百足内で飛影に出くわすことがある。当然無視している。あいつが俺を睨んでるのは何となく感じるが、一切関わらないようにしている。本気で叩き出したほうがいいな、あいつ。

 夜になると泣きたくなる。もちろん実際めそめそ泣いたりするはずはない。涙なんてガキの頃にとっくに枯れ果てた。ひとりぼっちの夜。そんなの何百年も馴れっこになっていたのに、俺もとんでもない甘ったれになってしまったものだ。あいつをいじめないと俺の気が休まらなくなってしまったらしい。全然寝つけない。ぐるぐると頭ばかり無駄に働いて、いくら待っても更けない長すぎる夜、終わりのない憂鬱。

 俺がまさにそんな夜を過ごしている最中、コツコツと扉を叩く音がした。
「誰だ。」
 機嫌悪く怒鳴ると返事があった。
「俺だ。」
 ・・・よりによってお前かよ。飛影は以前は断りもなく勝手に部屋に上がりこんできたものだが、こういう状況なので今扉にはたいそう頑丈な鍵を複数個つけている。
「来るなって言ったろ。さっさと帰れ。」
 一層機嫌悪く怒鳴ってやった。
「話したい。」
「俺は話したくない。話すことなど何もない。帰れ。」
「躯。」
 イライラする。未練たらしい野郎だ。俺がこうもはっきり拒絶してるのがわからないのか。俺は渋々部屋を横切り扉の前に立った。
「本当に帰れよ。お前の顔なんて見たくない。」
「俺はお前の顔が見たい。開けてくれ。」
 扉越しに惨めったらしい声が聞こえてくる。くそ、いまいましい。
「ついでに俺はお前の声も聞きたくない。自分の部屋に戻れ。」
 深々とため息をつくのが聞こえた。ドサリと音がして、多分座り込んだんだろう。俺も床に腰をどしんと落とし扉に背をもたれさせた。扉越しに背中を重ね、あいつ今どんな顔してるのかなと考える。
「なぁ飛影、わかってくれ。俺を困らせるな。」
 俺は本気で頼んでいるのに、わからずやのあいつは聞く耳を持たず話し続ける。
「俺はお前を失いたくない。今さら愛してるなんて言わなきゃいけないのか。」
 ・・・頭が真っ白になった。いかん、こいつのペースに巻き込まれてはまずい。
「馬鹿なこと言ってないでさっさと帰ってくれ。」
「帰らない。お前が開けるまで待ってる。開けてくれないならひと晩ここで寝る。」
 ああ、クソ!!
「お前、今すぐ死ね!俺がこの場でぶっ殺してやる!」
「わかった。じゃこれ開けてくれ。」
 あ〜イラつく!!!!もう駄目だ。俺はこれ以上奴に構うまいと決心してベッドに戻った。

 ・・・寝れない。寝れるわけがない。もともと寝つきが悪いのに、あいつのせいで扉の向こうが気になって仕方ない。あいつ、本当にまだいるのだろうか。いかん、無視だ、無視。俺は何度目かの寝返りを打った。
 ・・・あ〜!!駄目だ。無理だ。何時間か経ったと思われる頃、俺は息をひそめて忍び足で扉に近づいた。
 扉に耳をぴたりと当てて向こうの様子を伺ったが、そこそこ分厚い扉なため何の気配も感じない。・・・殴りたい。猛烈にあいつを殴りたい。ボコボコにしてやりたい。なるべく音を立てないよう厳重過ぎる鍵と格闘し、ようやく扉をこっそりと少し開け、こわごわ外を覗き込んだ。

 案の定奴はスカスカと寝ていた。このガキがこんな時間まで起きていられるはずがなかった。こっちはこんなにしんどいのに、奴が寝息を立ててのんきに眠っているのに腹が立った。では一発殴るかと、扉にもたれて座り込んだまま眠りこける奴の正面に回った。
 だけど俺は結局殴らなかった。それどころか奴の穏やかな寝顔に今にも吸い込まれそうに見入っていた。この憎たらしいガキ。俺を振り回すクソガキ。時々急に男になるヘタレガキ。俺はこいつにこんなにも惹かれ、こんなにも一緒にいたい。正直言って、愛なんてくだらない。だけど今がそれかもしれない。
 突然ふっと、何だかいろんなことがどうでもよくなった。妙にこだわってきたあれこれが、ひどくつまらないものに思えてくる。ずっとこいつの顔が見たかった。ずっと会いたかった。ずっとこいつを待ってた。何百年もずっと。何てことだ、目頭が熱くなってきた。
 愚かな俺は毛布を持ってきて奴にふわりとかけた。しばらくためらって、さらに愚かなことに隣にもぐりこんだ。奴の肩にそっと頭をもたれた。そうしていると不思議と安心して、俺はすぐに深い眠りに落ちた。
 自分を守ることに精一杯だった少女の自分にサヨナラをした。

 翌朝は大騒ぎだった。身を寄せ合って眠る俺達を朝一番に発見した奇淋が、目をむき顔を真っ赤にして俺達を叩き起こし、大声で怒鳴られ、延々と説教された。飛影はその後、奇淋にたっぷり搾られていたようだ。
 
 夜に俺達は初めて愛し合った。自分より大切な奴をついに見つけちまったからな、仕方ない。

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