□キャベツ頭の男
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キャベツ頭の男


あなたの頭が
キャベツになったと
聞いたとき
ちっとも驚かなかった
あなたみたいに
馬鹿な人はいない
当然の報い

あなたに会ったのは
ずいぶん昔のこと
私のひと目惚れ
むさ苦しいヒゲ面
だらしなく装った
嘘みたいなナイーブさ
慎み深い色した
ロマンティックな瞳
つぶやくように発する
ざらざらした低い声

あなたにとっては
私は取るに足らない女
一度だけだった
それでおしまい
あなたの記憶から
私は即座に抹消された
同じような女は
そこらにごろごろしてる

人を驚かすことでしか
生きていられない人
いつもスキャンダラス
大抵は
そういうフリをしている
いつもクール
そういうフリをしている

過剰な挑発
悪趣味な挑発
嫌悪感を催させる
下品な幼稚さ
きらわれ者の
悲しい道化
みんなあなたから
離れていく
中年男が寂しく歌う
純粋な少年の歌

誰もがあなたを嘲り罵る
軽蔑の眼差しが
突き刺さる
それでも変わらない
むしろエスカレート
おめでたい人

あなたの頭は
キャベツになった
辛かったんでしょう
繊細な人だから
寂しかったんでしょう
年老いた異端児
突飛なだけで
何の魅力もない
醜く固いキャベツ
汚れて虫がつき
腐りかけている
そんなもの誰も欲しがらない

あなたが死んだとき
フランス中が泣いた
今さら何だと思うでしょう
みんな本当は
あなたが大好きだった
大好きすぎて
どう接したらいいか
わからなかった
たくさんの涙が
古いキャベツを
丸ごと濡らした

あなたがいないと
どうにもつまらない
あなたのことを思い出して
なんとかやっていくつもり
特別な人だった
あなたみたいな人は
後にも先にも
ひとりだけ
くたびれ色あせて
なのに心に残る
不思議な美しさ
奇妙なキャベツ

それじゃ私は
ニンジンにでも
なろうかな

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