パラレル飛躯二次創作

□取り憑かれ
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 夏の暑い盛り、祖母が足をくじいてしまい墓参りに行けないというので代わりに孫である俺が行かされることになった。「お前しかいないだろ、飛影。他の連中は都合がつかなくて。」と祖母は有無を言わせぬ口調で俺をせきたてた。断れるものなら断りたかった。なにしろその墓地ときたら車で3時間の静かな山間のど田舎にあって、電車で行くにも不便だった。俺は子供の頃以来行ってないが、鬱蒼とした緑に囲まれた、田んぼだらけの薄気味悪く寂しい辺鄙な村だったと記憶している。祖母は執念深い性格で頑として引き下がらず、仕事を早めに切り上げて渋々墓参りに出かけた。

 長時間のドライブに疲れ果て、げんなりしながら夕暮れの墓地に足を踏み入れた。さびれてどんよりした雰囲気の薄暗い灰色の墓地で、突然白と赤の鮮やかな色彩が目に飛び込んだ。ひとりの短い髪の若い女がけばけばしい派手な花柄のワンピースを着て大胆にも墓石のひとつに腰を下ろしていた。女は裸足をぶらぶらと遊ばせてぼんやりどこか前方を眺めていた。気配に気づいてこちらに振り向いた女の虚ろな顔の美しさに、俺は息を呑んだ。23の俺とそう変わらない年頃だろうが、華奢でどこか少女のような風情なのに、挑むような眼差しはやけに大人びていた。真っ白な肌に整った顔立ちのまばゆいばかりの美女。うっすら汗ばんだ肌が濡れて艶めいている。

 あまりの倒錯的光景に、俺は言葉を忘れ見入っていた。女も何も言わず、ただじっと俺の顔を見つめていた。ふいに女の唇が動いた。女はよく通る落ち着いた声で話した。
「お墓参りに来たの?」
「ああ。」
「もう暗いけど、どれが目的のお墓か知ってるの?」
「いやアバウトには聞いて来たが正直よくわからない。」
「・・・そう。一緒に探したげる。」
 女はこの墓地に詳しいらしく、目的の墓はすぐ見つかった。俺がいい加減な墓参りを済ませている間も女はずっと俺の隣にいてその様子を見ていた。それも終わってから女は口を開いた。
「私のご先祖様もみんなここにいるのよ。」
「この辺に住んでるのか?」
「ええ。もうずっとこの村にいるわ。私の祖母も父も母もみな、この墓地にいるの。」
「・・・もしかして身寄りがないのか?」
「みんな死んじゃったから。でもみんなここにいるから平気よ。」
 ・・・ああそれで。女の瞳が寂しげに見えるのはそのせいかと俺は納得した。
「ほら、あのお墓。」
 女はさっき腰かけていた墓を指差した。不謹慎な女ではあるが、その墓はきれいに手入れされていた。
「あなたはどこに住んでるの?この辺りの人じゃないでしょう。遠いの?」
 女はぼんやりとした眼差しで墓のほうを見ながら尋ねた。
「ああ、車で3時間くらい・・・だいぶ遠いな。」
「・・・そう。」
 女はやはり寂しげな目で俺を見た。その目で見つめられると俺は息が出来なくなった。
「私、きれいな果樹園を持ってるの。見に来ない?」

 もはや俺に抵抗するだけの力は残っていなかったので、女に言われるままのこのこついて行った。その果樹園は女の家の庭、というか敷地内にあるだだっ広い立派なもので、桃にみかんに柿、梅、葡萄と無節操に何でも植えてあった。墓地を出ても女はずっと裸足のままだった。
「なんで靴履かないんだ。」
「裸足の方が気持ちいいから。」
「危ないだろ。怪我するぞ。」
「大丈夫。」
 女が夜の果樹園を案内する間も、俺はずっと女に見とれていた。不思議な女だった。まるで魔力でも持っているかのように俺をかき乱す。つかみどころのない、空を漂うような虚無感があった。
 急に女が立ち止まり顔を歪めた。
「痛っ・・・」
「どうした?」
 何か尖った物を踏んでしまったらしく、女の白い足から真っ赤な血が流れていた。
「だから言わんこっちゃない。見せてみろ。」
 女は小さな古井戸に腰をかけた。俺は白く美しい小さな足に触れた・・・鼓動が速まった。怪我は思ったより大したことはなかった。女の肌の吸い付くような滑らかさに、俺は眩暈がした。こみ上げる衝動をこらえ切れず優しく撫で上げると、女はビクリと身震いした。
 女は頬を上気させ、潤んだ目で俺を見つめそっとささやいた。
「今夜・・・泊まってかない?」

 
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