パラレル飛躯二次創作

□I'M YOUR TOY
1ページ/5ページ

 ふたりが出会ったのは本当に全くの偶然だった。ある日の夕方、飛影は公園のベンチに座り憂鬱な気分で思い悩んでいた。身に着けているTシャツもデニムも着古して小汚く白のスニーカーはところどころ破れていた。小柄だが大きな澄んだ目と少し寂しげな雰囲気が目を引いた。
 向こうからすらりとした若い女が歩いてきた。鮮やかなグリーンのプリーツワンピースにツヤのあるベーシュのパンプスを履いて、おそらくのんびりと散歩でもしているのだろうが、鼻歌でも歌い始めそうな雰囲気だ。
 彼女は彼がいるのに気付き、びっくりして立ち止まった。瞬きもせず、彼を不思議そうに見つめた。
 彼はまた、彼女があまりに美しいのに目を見張った。人工的なほど整った顔立ち、人形のように白い肌、小さな頭を包みこむ柔らかなショートヘア、長い手足。
 彼女はゆっくりと彼に近づいてきて、彼の隣のベンチに腰を下ろした。キャメル色の大きなバッグをしきりにいじりながらしばらく目を伏せてためらっていたが、意を決してすっと顔を上げ彼を見た。彼女もまた澄んだ輝く目をしていた。頬をほのかに染めておずおずと尋ねた。
「今、そこの病院帰りでお散歩してたの。・・・あなたは?」
「俺もそんなところだ。」
 彼がそう言って彼女をじっと見ると、彼女はすっかり上がってしまい、もう何も言えなくなってしまった。しばらくそのままお互い黙っていたが、沈黙が息苦しくて彼は口を開いた。
「病院って何であんな陰気で居心地が悪いんだろうな。それに白い壁が明るすぎて頭が痛くなる。ここに来てやっと落ち着いた。」
「ええ、そうね。・・・もちろん。」
 彼女がまともな返事も出来ないでいるのを見て彼はちょっと微笑んだ。それで彼女は一層上がってしまった。
「ここにはよく来るの?」
「そうだな、よく来る。家も近いからな。」
「素敵な公園ね、ここ。」
 彼が彼女を無遠慮にじろじろ見るので彼女はたまらなくなり立ち上がった。
「私またここに来るわ。そしたらまた会えるわよね?」
「・・・多分な。」

 あれから毎日のようにその公園でふたりは会うようになり、やがて自然と付き合うようになった。彼女の家は遠くふたりとも忙しかったが、なんとか時間を割いては共に過ごした。彼女はとても可愛らしく優しかったし、彼もぶっきらぼうだけれど彼女にはとても優しくて、そういうところに彼女は夢中だった。出会って1週間経つ頃彼女がこっそり打ち明けたのだが、彼女は実は大企業の社長令嬢だった。彼は小さな町工場に勤めていて身分違いも甚だしかったが、喧嘩ひとつなくとても仲のいいカップルだった。お互い自由な時間はすべてふたりの時間に当て、いつも一緒だ。ふたりでいると信じられないくらい楽しくて幸せだ。2ヶ月経つ頃には少しずつ結婚の話さえ出るようになった。結婚したらどんなところに住もうだとか、子供は何人欲しいだとか、そんな無邪気な夢物語をよく語り合った。

 ふたりが出会って3ヶ月経つ頃、突然彼は彼女に「お金を貸して欲しい」と言った。彼女は驚いた顔で目を丸くして彼を見つめたが、黙って言われるままの莫大な金額を翌日手渡した。それきり彼は彼女の前から姿を消し、連絡もとれなくなった。彼女は何度となくあの公園に通ったが、二度と彼は現れなかった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ