パラレル飛躯二次創作

□女優
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 なりたくてなった職業じゃない。高校入ってすぐ、バイトでも探そうかと街をふらついてたら声をかけられた。初めてのスカウトではなかったし今までずっと断ってたのだが、金欠だったので小遣い稼ぎにやってみようかと思った。あれから3年。気付けば俺はティーンのカリスマ、売れっ子女優のスターだ。

 ドラマの楽屋で女性誌を広げ、不満そうな表情で躯はあるランキングの載ったページを眺めた。セクシーな女第一位。そこに自分の名前がある。彼女は二年連続でこのランキングのトップに君臨していた。ちゃんちゃらおかしいぜ、こんなランキング。俺のどこがセクシーだ、信じられん。呆れ顔で躯は鏡に映った自分をまじまじと見た。黒のタンクトップからのぞく胸は特にデカくはないし、肉感的な唇をしているわけでもない。髪は男の子みたいに短く切ってあり、話し方も動作も完全に男だ。目ばかりギラギラしていて、男に媚びた表情なんて絶対しない。いつもタンクトップにデニム、ビーサンで、仕事以外でスカートを履くことはない。なのになぜ。人は俺をセクシーだと言う。

 くそ、わけわかんね。躯は部屋の隅で手帳を手に仕事の電話にかかりきりの小柄な男を睨みつける。躯だって他の女優達に比べだいぶ小柄なのに、彼は男のくせにその躯よりもさらに数センチ背が低い、本物のチビだ。
「はい、ではその時間に伺います。ええ、よろしくお願いします。」
 気持ち悪ぃ、まるで似合わないバカ丁寧な話し方しやがって。仕事だから仕方ないけどさ。スーツだっていつまでたってもちっとも似合わない。チビだから七五三みたいだ。こいつマネージャーなんて仕事絶対合ってないのに、よく今まで辞めずに続いてるな。
 ピッ。話し終えて携帯を切り、飛影は大きな鋭い目で躯に冷ややかな一瞥を与えた。
「睨んでんじゃねぇよ、ガキ。胸くそ悪い。」
「だってさ、見ろよこのくだらないランキング。今年も俺が1位だってよ。どうかしてんじゃねぇか。」
 雑誌を飛影に投げてよこした。飛影はちらとページに目を走らせて言った。
「光栄じゃないか。女優にとっては最大の誉め言葉だぜ。」
「にしてもあんまり変だろ。」
 むしろ当たり前だけどな。ふくれている躯の姿を見ながら飛影は思う。この業界にはきれいな女やスタイル抜群の女なんて掃いて捨てるほどいるが、躯はそういった女達とは全然違う。小さな頭に華奢な体つき、長い手足に美少女顔でまるでお人形みたいなルックスなのに、獣のように強く挑発的な眼差しが見る者を虜にし、他を圧倒するすさまじいオーラを放つ。ボーイッシュでナチュラル、奔放なキャラクターも魅力に拍車をかけていた。
「お前の仕事の選び方が悪いんじゃないか?」
 怒りの矛先を今度は飛影に向けた。
「俺はちゃんとお前のためになる仕事を選んでるつもりだが?」
「いや、似合わない清純派の役とかばっか持ってきてさ、それが逆に良くないんじゃないか?」
「お前に似合いの変な女の役もいっぱい持ってきてるだろが。」
「とにかくなんか偏ってるんだよ。」
 口を尖らせて腕を組み躯はすねた。偏ってる・・・それは事実だ。飛影はラブシーンのある役は決して持ってこない。キスシーンすらNGだ。まだ十代だから、というのがその理由だ。もちろんそういった役のオファーは常に殺到しているのだけれど。
「俺はヌードもラブシーンも何でも来いなんだがなぁ。」
 軽々しくそんなことを言う躯に飛影は眉をひそめる。
「黙れ、メス豚。」
「もうすぐ俺もハタチだぜ、そしたらどんな役でも引き受けていいんだよな?」
「考えとく。だがお前の好きにさせたらお前あっという間にヨゴレ女優になるぞ。」
「そっちのほうが性に合ってるんだよ。」
 躯はあくびをした。
「なにがセクシーな女第一位だよ、好きな男ひとり落とせないのにな。」
 腕にはめたゴツいバングルをいじりながら躯はまた飛影を睨んだ。飛影が躯の17の誕生日に無理矢理プレゼントさせられたそう高価でもないバングル。それを躯は唯一のアクセサリーとしてずっと肌身離さず身に付けている。
「俺は女に興味ないからな。」
 顔色ひとつ変えず飛影は言った。
「で、男には興味あるとか言うのか。」
「その通り。」
「嘘つけ!」
 まったくこの男ときたら。鼻をフンと鳴らして躯はソファにふんぞり返った。最初に会ったときから気に入ったけど、知れば知るほどどんどん好きになって、あっという間にどっぷりハマっていた。でも彼はいつまでも彼女を子供扱いして、ちっとも相手にしてくれない。おかげでこのセクシー女優は、19にして男を知らないどころか付き合ったことすらない。
「飛影。」
 大好きな名前を呼びかけると憎たらしい顔が「ん?」と振り返った。躯はにっこり微笑んだ。
「愛してるぞ。」
 うんざりした表情で飛影は言い放った。
「寝言は寝てから言え、ボケ。」
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