オリジナル・その他

□モダン・ランボー
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すがすがしい風の吹き抜ける朝5時、気持ちのよい小鳥のさえずりで目覚めると、隣に俺の幼馴染の彼女、千春が寝ていて、穏やかな寝息を立てていた。柔らかな白い胸が呼吸に合わせて規則正しく上下している。ああ、そうだ、俺は昨夜こっそりこいつの部屋に忍び込んだんだっけ。千春の家族が目を覚まさないうちに急いで退散しなきゃならない。だけどその前にこいつの顔をもう少し眺めておこう。千春はそう美人ってわけじゃなく垢抜けないけれど、可愛くて優しいお人好しだ。13の頃から付き合い始めて、高校入っても17の今までずっと続いてるから、だいぶ長い付き合いになる。一緒にいるとホッとして落ち着くんだ。俺は昔からいつも精神状態が不安定だから、こいつのおかげで随分救われている。
 30分程そうしているとやっと満足して、俺は千春の額にそっとキスをした。さて、ここからが問題だ。千春の部屋がある二階の窓から隣の俺の家の俺の部屋に屋根づたいに飛び移るのはひどくアクロバティックで、若い俺でも骨が折れる。落ちたらほんとに骨を折るぞ。

 朝食を食べに一階に下りると、おふくろが俺を見るなり目を吊り上げた。
「乱、お前、昨夜千春ちゃんとこに行ってただろ?」
「行ってねぇよ。」
「嘘つくんじゃない。部屋にいなかったじゃないか。」
「いちいち人の部屋覗くな!俺もう17だぜ。」
 俺達の言い合いを見て、ひとつ上の兄がのっそりトーストをかじりながらニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべた。
「いいよな、乱は彼女がお隣で。俺の彼女は隣町に住んでるからそうはいかない。」
「とにかくうっせぇんだよ、クソババァ!」
 俺はトーストを掴んで逃げ出すように家を出た。出る時に廊下で起きてきたばかりの小さな弟と妹とすれ違った。ふたりは目をこすりながら俺を見て、「お兄ちゃん、おはよう。」とあどけない挨拶をした。外に出ると、マッチ箱みたいなちっぽけな俺の家と千春の家が並んでポツンと建っているだけで、あとは見渡す限り辺り一面、田んぼが広がっている。自転車で高校へ向かう途中、のどかな田舎道では何匹もの車に轢かれたカエルの死骸に出くわす。千春の家はもちろん農家だ。俺の家はおふくろがひとりで自宅の一階に老人相手のしょぼい美容室を開業してなんとか生計を立てている。トラック運転手の親父は滅多に帰ってこないから顔も忘れてしまいそうだ。家に金を入れてくれないからおふくろは大変だ。さっさと離婚すればいいのにその気は毛頭ないらしい。最後に親父が帰ってきたのは二年前だったが、家に3日しかいなかったのに、親父が出て行ってすぐおふくろの腹は膨らみ始めた。四年前もそうだった。ガキを作るためにおふくろは親父と別れないのかと勘ぐりたくなる。
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