オリジナル・その他

□ばあちゃん
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 ばあちゃんの白くてシワシワの頼りない二の腕が好きだった。しなっとした感じが優しくて、触れると不思議と落ち着いた。くたびれた小さな皺だらけの手も好きだった。それから可愛らしい丸みを帯びた柔らかな眉の形、純粋に輝くつぶらな瞳、小さく薄い口。頭が良くて、テキパキしてて、お洒落で社交的でお嬢様育ちなばあちゃん。
 自慢のばあちゃんだったのに、たったひとりの孫で同居していた私はいつも仲良く一緒にいたのに。気づいたら、ばあちゃんは私の目の上のたんこぶ、うっとうしくて邪魔で仕方ない存在。

 ふたりの関係に亀裂が入ったのは、私が高校2年のとき。私は同級生の男の子に初めて携帯のメールアドレスを聞かれた。なんで私?と思うようなかっこいい人だったので私は有頂天になり、間もなく頻繁にメールする仲になった。
 当時、私はばあちゃんには何でも包み隠さず話すことにしていた。大好きなばあちゃんは、頼りになる相談相手で、何でも話せる親友でもあった。私がばあちゃんに彼のことを話すと、ばあちゃんは薄い眉を吊り上げて静かに尋ねた。
「で、その子はハンサムなの?」
「うん、すごくハンサム。」
 私はニコニコと無邪気に答えた。
「成績はいいの?」
「勉強は苦手みたい。でもスポーツは得意で、サッカー部なの。素敵でしょ?」
 ばあちゃんはフンと鼻を鳴らした。
「おうちはどうなの。お金持ちなの、公務員なの。」
「お父さんはトラックの運転手をしてるんだって。」
 ばあちゃんの顔がひきつった。

 翌朝学校へ行くと、彼の態度が明らかによそよそしかった。
「おはよう。」
 私が挨拶しても、
「・・・おはよう。」
 顔を合わせずに小さな声でつぶやくだけ。
「今日、帰り下駄箱の前で待ち合わせね。」
「いや・・・俺、今日友達と帰るから。」
「え、何で!?」
「・・・これからずっとそうする。」
「どうして!?」
「メールももうしない。」
「・・・・。」
 突然の彼の心変わりに私は言葉を失って立ち尽くした。
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