オリジナル・その他

□僕はゲイじゃない
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「瞬くん、今日は何読んでるの?」
 昼放課の教室で僕が趣味の読書に耽っていると、いつの間にかクラスの女子数人がニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべて僕を囲んでいる。
「・・・えっとね、今日は、ほら、『赤毛のアン』だよ。」
 僕が本の表紙を見せながらしどろもどろに答えると、彼女達はいきなりドッと笑い出した。
「昨日は『若草物語』だったよね!?超乙女〜!ケッサク〜!!しかも確か3日前も『赤毛のアン』って言ってたじゃん!」
「だって・・・『赤毛のアン』はいつ読んでも素敵だもの。僕はもう数え切れないくらい何度も読んでる、多分、百回以上かな。アンは僕の憧れなんだ。僕もアンみたいにまっすぐで夢のある男になりたいと思ってる。」
「きゃ〜超可愛い〜!!面白すぎ!!っつか私、『赤毛のアン』なんて昔母親が買ってきたけど結局読んだことないし!」
「それはもったない、ぜひ読んだ方がいいよ!絶対面白いからね!僕も昔ママが買ってきてくれたんだ。」
「うわぁ〜!『ママ』キタ〜!!さすが瞬くん!!」
「えっ、みんなだって『ママ』って呼んでるだろ?」
「男で『ママ』はありえないでしょ!!んじゃ瞬くんは、おばあちゃん、おじいちゃんは何て呼ぶの?」
「『グランマ』に『グランパ』だよ。」
「きゃあ、超ウケる〜!!瞬くんって絶対ゲイだよね!めっちゃオンナノコだもん!」
「そんな、違うよ、僕はゲイじゃないしちゃんと男の子だし・・・。」
 先生が授業のため教室に入ってきたので、やっと女子達は散り散りに自分の席に戻って行った。僕は迷惑な馬鹿騒ぎから解放されてホッとした。ほぼ毎日、僕の周りではこんなやりとりが繰り返されている。まったくうんざりしちゃうよ、頼むから僕のことはそっとしといてほしい。 

 数学の授業中、少し離れた席に座るうちの中学の2年でいちばんの美少女、鈴木志保を眺めながら、僕はほぉと賞賛のため息をついた。透明感のあるしっとりした肌、ほっそりとした体つき、深い漆黒の瞳、清楚に後ろでひとつに編んだ艶やかな黒髪、凛とした横顔。赤毛のアンならばさしずめアンの腹心の友ダイアナ、ディズニーで言うならばひたすらに愛らしい白雪姫。彼女にはこのクラスの他の女子達のような下品さが全くない。
 鈴木さんは見れば見るほどうっとりするほど綺麗だ。なんとも言えず爽やかで、たおやかで、おとなしくて、まさにおとぎの国のお姫様。たとえるなら大輪のバラの花、いや違う、そんなおおげさで派手なのは僕の趣味じゃないし、鈴木さんのイメージともかけ離れてる。もっと、触れれば壊れてしまいそうなくらいに可憐な・・・そう、そよ風に揺れる紫のスミレ、もしくは控えめにひっそりと咲く、ふんわり儚いカスミソウ。
 
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