オリジナル・その他

□夫婦喧嘩は犬も食わない
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 午後8時、真理子はクタクタに疲れて仕事から帰宅し、高層マンションのエレベーターを昇った。自宅の玄関の扉を開けると、廊下に脱ぎ捨てられたスーツのズボンが真っ先に目に飛び込んできた。あとを辿っていくと、次にグチャグチャのネクタイが、その次には白いワイシャツが廊下にだらしなく続いている。
「ただいま。いるんでしょ?」
 声をかけると、廊下の少し奥から間抜けな声で返事が返ってきた。
「いるよ!おかえり。」
 声のする方へ廊下を進む。今度は白のTシャツ、それから黒い靴下が脱ぎ捨てられている。最後になんともそのまんまな状態でトランクスが置いてあって、目の前はトイレだ。
「おかえりぃ。」
 ゆっくりと細く扉が開き、奥に真っ裸な夫の雄一の整った顔が見えた。
「ああ、うん、ただいま。ってかいちいちそんなとこから顔見せなくていいよ!それからもう秋だから帰って全部服脱ぐのやめて。」
「だってすぐ風呂入ろうと思ったからさぁ。」
 真理子は廊下に散らばった雄一の服を拾い集めると、ブンと力任せに洗濯カゴに放り投げた。
「なんだかね・・・。」
 真理子が独り言を言いかけると、長いトイレから出てきた雄一がスッキリした顔で尋ねた。
「どうした?仕事大変だったのか?」
「・・・まぁね。」
 真理子は慌てて適当にごまかしキッチンに水を飲みに行く。とりあえずトイレに行くのはもうちょっと後のほうがいい。今行くと地獄を見るの間違い無し。
 ゴクゴクとコップの水を飲みほしながら、真理子は職場の同僚の吉岡のことを考えていた。仕事が出来て、クールで、知的で、優しくて、背が高くって。
 それにひきかえ・・・真理子はちらとリビングの雄一のほうを振り返る。真理子の夫の雄一はカラスの行水で風呂を済ますと、早速パソコンに向かいゲームに夢中だ。雄一は家にいるときはほぼ100%、ゲームをしているかテレビを観ている。そんなわけで真理子はなかなかパソコンが使えないので、最近貯金を切り崩して自分専用のノートパソコンを買った。
「あんたさぁ、いい歳してなんでそんなにゲームばっかしてるわけ?超バカに見えるよ。」
 イライラして真理子が言うと、雄一はパソコンの画面から目を離さずに答えた。
「ゲームしてるときがいちばん楽しいからね。俺の生き甲斐。あ〜、今話しかけないでくれる?いいとこなんだから。」
 ため息をついて真理子はテーブルに広げてあったファッション誌を手にとり、パラパラとめくった。結婚してもう3年。子供にも恵まれず、だらしない夫は毎日ゲーム三昧。あれでも結婚前は優しかったのに、釣った魚に餌はやらない典型的パターン。この先の人生、果たしてこのままでいいのだろうか。こんなはずじゃなかった。
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