美男子探偵蔵馬シリーズ(ミステリ)

□変態鴉殺人事件 後編 <美男子探偵蔵馬2>
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 ふたりが屋敷に出向くと、裏庭には既にたくさんの警察関係者がひしめいていた。
「ああ、蔵馬さん、ご苦労さまです。こちらが殺害現場です。」
 蔵馬は警察に顔がきく。若い刑事の丁寧な案内でふたりが警備をかいくぐって見ると、艶やかな長い黒髪を放射状に広げた鴉がおびただしい血を流し、変わり果てた姿で芝生の上に転がっていた。
「死体になっても気味の悪い顔だな。」
 飛影がつぶやくと刑事も頷いた。
「ええ、端正な顔立ちをしてるんですが・・・どうにも内面が滲み出るというか。この男が死んで悲しむ奴なんていないんじゃないですかね。」
 明らかにとても喜んでいる蔵馬が張り切って質問を始めた。
「腕、脚、腹、胸・・・刺し傷が体中に数箇所あるようですが、酷いものですね、メッタ刺しです。犯人は被害者によほど深い恨みを抱いていたのでしょう。ええ、わかりますとも、痛いほど。凶器は見つかりました?」
「いえ、犯人が持ち去ったようで見つかっていません。」
「そうですか。発見状況はどのようなものでした?」
「今朝、庭師がバラの手入れをしようとしたら死体を見つけたそうです。」
 刑事は芝生の脇に植えられた見事なバラを指差した。
「ということは夜中に殺されたんでしょうね。」
「ええ、医師もそう言っていました。」
「ふぅん・・・。」
 飛影が珍しく興味しんしんの様子で蔵馬ににじり寄って来た。
「おい、こいつが殺されたってことは、やっぱりお嬢の死も他殺だったかもしれんな。連続殺人だ。」
「そうですね、何となくそんな気はしますが・・・まだ判断を下すのは早いでしょう。このタイミングですから何らかの関連があるのは間違いないと思いますね。」

 死んだ美咲の伯母の孝子の家では、孝子が滝のように涙を流し、むせび泣いていた。
「みんな私が鴉を殺したって言うんです。あんまりですわ!私は虫ケラ一匹殺せる女じゃありません!どうして私にそんな恐ろしいことが出来るでしょうか!!今朝から刑事さん達がよってたかって私に酷い尋問を何時間もしていって・・・家の前ではマスコミが待ち受けてるし・・・これじゃもうご近所さんに顔向けできません。私、今年は町内会の会計なんですよ!私は今まで悪いことなんて何もしてないですし、清く正しく生きてきました。それなのにこんなのってないですわ!」
 もう2時間もこうやって泣きっ放しで、蔵馬がいくらなだめても全く聞く耳を持ってくれず、さすがの蔵馬も途方に暮れてしまった。目の前のゴミ箱は既にふたつともティッシュが山盛りになっていた。まだ何も聞けていないがもう退散したほうがいいのではと蔵馬が考え始めていると、飛影がキッチンからケーキ皿を持って現れた。
「冷蔵庫にあるもので勝手に作ってしまったんだが・・・良かったら食べるか?」
 差し出された美味しそうなチーズケーキをを見て孝子は目を輝かせた。
「まぁ素敵!私チーズケーキに目がないのよ!」
 がつがつと食べ始めた孝子を見て、蔵馬は目を丸くした。
「・・・やりますね、飛影。」
「こういう時はこれしかないんだ。雪菜もいつもそうだった。」
 すっかりお腹が満たされた孝子はやっと落ち着いて話し始めた。
「そりゃ鴉は正直不気味な子でしたわ。でも人畜無害なおとなしい子で、私は恨んだことなんて一度もありませんでした。みなさんが私を疑うのは、あの子が死んで私がその分まで遺産を受け取ることになったからでしょう?もちろん私だってお金は欲しいですよ、でもそんなに多く欲しいとは思いません。確かに遺言のことは知っていましたが、私はそんな強欲な女じゃありません。もともとの私の取り分だけで私は十分だったんですよ・・・。」
「ええ、しかし大変お気の毒だとは思うのですが、遺産のことを考えるとどうしてもあなたが第一容疑者になってしまいます。」
 蔵馬がそう言うと孝子はまた顔を歪めしゃくりあげる素振りを見せたので、蔵馬はすかさず得意のキラースマイルを発動した。数十秒うっとりと見とれて孝子は落ち着きを取り戻し、話を続けた。
「昨夜ですか?昨夜は10時半ごろお通夜から帰って、入浴して11時半まで皿洗いをしつつ少しテレビのニュースを見て、それから本を読んで12時には寝ましたわ。」
「それが証明できる人は?」
「そう言われましても、家族ならみな証言してくれると思いますが。」
「生憎、家族では大した証人にはなりませんね。」
「とにかく今、家にいる者を呼んで来ます。」
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