美男子探偵蔵馬シリーズ(ミステリ)

□桃色ナース殺人事件 後編 <美男子探偵蔵馬4>
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「一体、警察は何やってるんでしょうねぇ。早く有力な手がかりを見つけてくれないと、この事件このまま迷宮入りしちゃいますよ。」
 事務所であくびをしながらのんびり蔵馬がぼやくと、飛影は軽蔑の眼差しで蔵馬を見た。
「どれだけ他力本願なんだ、お前。それでもプロか。俺と躯の容疑を晴らさないといかん、しっかりしてくれ。」
「だって警察が総力あげて捜査してくれてるのに俺が無駄に動く必要ないじゃないですか。それに躯はあのケーキで危うく無差別大量殺人をしでかすところだったわけですし、あの人はおとなしく刑務所入ってたほうが世の中平和に・・・イタタ、つねらないで下さい!」
 飛影に思いっきりつねられた蔵馬は涙目で続けた。
「ところであの人の料理、想像してた以上に凄まじいですね!あなた、よく今まで無事ですんでましたね、あれじゃ毎日地獄でしょう。」
「いかにあいつの目を盗んで捨てるかが問題だ。毎日命がけ、胃薬は必需品だ。」
「・・・お気の毒様です。今すぐ別れた方がいいですよ、じゃないと遅かれ早かれあの世行きです。職場でも超変人で通ってるようですし、あなたはあんなゴリラのどこがいいんですか。」
「むしろ俺はあいつのそういうとこが気に入っている。」
「・・・お似合い変人カップルというわけですね。勝手にして下さい。」
 その時、事務所の電話が鳴った。
「・・・はい。え、本当ですか!?すぐそっち行きます。」
 受話器を置くと蔵馬は言った。
「警察からです。一ヶ月前、重野のマンションの近所の白アリ駆除業者から駆除用の砒素が盗まれていたことがわかったそうですよ。やれやれ、やっと警察がまともな仕事してくれましたね。」

「今時、白アリ駆除に砒素なんて使ってるんですか?物騒な。」
 白アリ駆除業者の古い倉庫で蔵馬が言うと、刑事が答えた。
「いえ、安全性の問題で現在は使われていません。単にここの主人のじいさんが昔使ってたのを保管してたのです。」
「ふぅん、じゃあ犯人は絞られますね。ここに砒素が保管されていたことを知ってた人物ですよ。」
「それがここのじいさん、人脈が広い上におしゃべりで、このあたりの連中は皆そのことを知ってたそうです。」
「砒素みたいな劇薬のことを軽々しく言いふらすなんて、とんでもないおじいちゃんですね。」
 蔵馬は砒素の粉末が保管されていた薬品棚を調べた。
「鍵が壊されてますね。こんなちゃちな鍵、誰でも簡単に壊せてしまいますよね。」
「ええ、この倉庫だって時代物のオンボロですから、窓からでも扉からでもすぐ入れてしまいます。」
「不用心なおじいちゃんですね、はた迷惑もいいところですよ。ところで指紋や遺留品等は見つかりましたか?」
「指紋はこの家の者のだけでした。遺留品も今のところ見つかっていません。」
「とは言っても、こんな小さな窃盗事件でそう丁寧に調べたわけじゃないんでしょう?もう少し俺はここを調べてみますよ。」
 面倒くさがりの蔵馬にしては珍しく、彼は少しの間、ホームズばりに床に這いつくばって調べていたが、やがて満足そうに立ち上がった。
「ほらね、あった。」
 薬品棚の下の隙間奥から蔵馬が拾い上げたのは、埃にまみれた白いリストバンドだった。
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