美男子探偵蔵馬シリーズ(ミステリ)

□モデル系ホモカップル殺人事件 前編<美男子探偵蔵馬5>
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「あのですね、飛影・・・俺、探偵やめてモデルになろうかと考えてるんです。」
 都心の高級マンションの一室、蔵馬の探偵事務所兼自宅。自分専用で使っているリッチな革張りの回転椅子に腰かけ、若い男性に人気の男性向けファッション誌をペラペラと熱心にめくりながら唐突に言い出した美男子探偵蔵馬を、その助手兼料理人をしているチビの飛影は、パッと目を引く大きな三白眼を細めてしげしげとひどく白けた目付きで眺めた。
「蔵馬、お前が? モデルだと?」
 露骨に馬鹿にした表情で、飛影は鼻で笑った。
「お前みたいにへなへなした、女の腐ったような男がモデルになってどうする。女装して女向けの雑誌にでも出る気か?」
「え〜、わかってないなぁ、飛影。」
 飛影の痛烈な皮肉にも少しもひるまず、蔵馬はニヤニヤと自分の世界にひたりきった気持ちの悪い笑みを浮かべた。
「今も昔も俺が女性にすごくモテるって、飛影も知ってますよね? いやぁ、子供のときからもう、とにかく猛烈にモテてモテて大変で、可愛いとかきれいとか格好いいとか学校でもご近所でもあらゆる年齢層の女性に常にきゃあきゃあ騒がれまくり。毎日ひっきりなしの女の子からの告白やラブレターをさばくのに忙殺されて、しまいには勝手にファンクラブまで作られちゃって・・・。毎年バレンタインデーは、今にもてっぺんから崩れてきそうにドドンと高くなったチョコレートの山に、異常にモテすぎて不幸な俺は全身すっぽり埋もれてたっけ。」
「・・・フン、完全にただの自慢だな。自惚れやがって。」
 飛影は苦々しく舌打ちして言い捨てて、家事に慣れた人間独特のせかせかとした足取りで蔵馬の仕事用の部屋を出て、ケーキ好きの蔵馬にせがまれて焼いていたケーキの焼き具合をキッチンのオーブンまで確認しに向かった。
「いえいえ、自慢じゃありませんよ。こう見えて俺は学生時代から、すこぶる生真面目な硬派でしたから・・・。俺は女性にチヤホヤされるよりもっと勉強やスポーツに思う存分打ち込みたかったんです。こう言っちゃ当時の俺の女性ファンの方々に失礼ですけど、なんだかせっかくの俺の大事な学生生活を邪魔された形でしたね。はぁ、まったく・・・モテる男は大変なんです。俺に比べて全然モテない凡人の飛影が羨ましい・・・。」
「よく言うぜ。どうせお前の学生時代は推理小説や探偵のくだらない真似ごとにうつつを抜かしてただけだろう。やれシャーロックホームズだ、やれポワロだ、金田一耕介だ・・・。」
 飛影の間髪入れぬツッコミに蔵馬は目を丸くした。
「当たり! 飛影、どうしてわかりました?」
「今のお前を見る限り、昔のお前がそんなまともな学生だったとは到底信じられないからな。どうせ昔から周りが一斉に引くくらい変人丸出しだったんだろ?」
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