パラレル飛躯二次創作A

□悲しみ機械
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 ・・・ポトリ、ポトリ。涙が一滴、また一滴と膝に落ちる。夜、寝付けなくてひとりベッドの上で膝を抱えうずくまっていると、どこからか自然と涙が出てくる。涙は果てしなく次々と溢れてきて止まることを知らない。私の体内にこんなに水分があるなんてどうしても信じられない。こんなに泣いていたら、私の小さな体なんてとっくに干からびていてもいいはずなのに。
 なぜ私は泣くのだろう、その理由を私自身知らない。特に何か悲しいことがあったわけではなく、私は今特に不幸な状況にいるわけでもない。それなのにとめどなく流れ出る涙。今だけの話じゃない、毎晩毎晩、日によっては1日に幾度か、私はこんなことを繰り返している。
 世の中の、人生の、毎日の、様々な苦しみ、悲しみ、すれ違い。そういったものが、たとえ日々の些細なものでも、鋭い棘となって私を刺し傷つける。ほとばしる血が涙となって、毎晩私の頬を濡らす。甘えてる?その通りだ。自分で自分に酔ってる?きっとそうなのだろう。でも私だって本当は涙なんて流したくない。止める方法を私は知らない。誰かに止めて欲しい。誰かに助けて欲しい。ここから抜け出したい。わかり始めてきたのは、誰も私を助けてはくれないということ。私をわかってくれる人なんてひとりもいない。わかろうとしてくれる人さえいやしない。私はひとりぼっちで、今夜も暗い涙に力尽きるまで身を任す。

 やっと朝が来て、私の気持ちも幾分晴れわたる。私の朝は早い。出かける1時間半前には起きて、念入りな身支度をする。スキンケアとメイクに1時間かかる。肌のアラなど許されないからベースメイクは完璧に、付け睫毛とマスカラで睫毛は誰よりも長く。髪質には恵まれているから、腰まであるストレートのロングヘアはほとんど手がかからない。服は昨晩選んであるのを着るだけ。今日はオレンジのプリントドレス。簡単に朝食を済ませて大急ぎで出かける。
 大学では私はいつも注目の的だ。入学したときからずっとそうだった。いや、物心ついたときからずっと。みんな私のことを「お人形さんみたい」と言う。誰もが私を賞賛してくれて、いつもたくさんの男の子に囲まれて、それなのに私は死にたいくらい孤独だ。私は知っている、私の外見は確かに美しいけれど、内面は誰よりもみっともなくてつまらないことを。私はからっぽ。私の体の中は空洞で、しみったれた涙だけがいっぱいつまってる。私は嫌な女だ。外見しか人に認めてもらえるものがないならば、せめて誰よりも美しくなってやろう。私は孤独。

「君のことがずっと好きだったんだ。」
 聞き飽きた台詞に相手の顔をやっと見ると、細身のすらりとした男でいかにも優しそうな顔立ちをしていた。
「付き合ってもらえないかな。」
 一応考えるフリをしてから私は答えた。
「ごめんなさい、私、誰とも付き合う気ないの。」
 相手は驚いた顔をして、わずかな沈黙の後、こう言った。
「じゃあ俺・・・待ってるよ。君が誰かと付き合ってもいいと思えるまで。」
 ・・・馬鹿な男!

 私の趣味は美容とファッションと、ううん、それは嘘かもしれない、それらはどちらかというと趣味じゃなくて義務だから。本当の趣味は男を振ること。まったくどこまで最低な女なんだか。だけど私は気のあるフリをしたことなんて一度もないし、他人の男を盗ろうとしたことだって一度もない。相手が勝手に好きになって勝手に言い寄ってくるだけなんだから、私に罪はないはずだ。どうせ男達が好きなのは私の外見だけで、内面なんて好きになりっこないし、それどころか私の内面がどんなかなんて何も知らないに違いない。どうでもいいのだ、そんな男達。せいぜい踏みにじって楽しめばいい。私はお人形、心を持たない、きれいなだけのお人形。どうせ外見の美しさしか私の存在価値なんてない。
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