パラレル飛躯二次創作A

□心地よい孤独
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 ・・・チリン。客の出入りは古い扉に取り付けられた鈴の音でわかる。俺は一瞬扉のほうを見やって、すぐにまた手元の本に視線を戻す。三年前、体が弱った祖母から受け継いだ、俺の小さな古本屋。俺はまだ30をひとつ越えたばかりの女だが、この世間と隔絶された仙人のような静かな隠居生活はとても心地いい。俺の性に合っている。客は決して多くなく、当然収入も少ないが、なんとか生活できるだけあれば満足だ。服や旅行に散財する趣味はない、贅沢したいとは思わない。それよりも毎日心穏やかに生活すること、誰にも煩わされずに自由に自分のペースで暮らせるのがなによりだ。ここの客はみな物静かでトラブルなんてないし、あくせく接客するような気疲れする仕事ではない、誰に指図されることもない。BGMもない寂しい店だが、この落ち着いた雰囲気の中で店番しながら本を読むなりぼんやりするなりして過ごしていると、悩みなんてなにひとつなく、自分が完全に自由だと感じる。毎日何事もなく、平和な時間だけが過ぎていく。
 子供の頃から人付き合いが得意でない。協調性とか社交性というものが生まれつきすっぽり欠けている。人に合わせること、苦手な人に接すること、自由でないことが耐えられない性格。恋愛も興味ない。もちろん男と付き合った経験の一度や二度はある。俺は美人なほうだから、実を言うと割とモテる。だけど恋愛は疲れる、やたら人に合わせなきゃいけない。そんなわけで付き合ってはすぐ別れて、もう長年誰とも付き合っていない。言い寄られたら断る、言い寄られないよう近づきがたい雰囲気を漂わせておく。いつもデカい黒縁眼鏡をかけ仏頂面で、短く切った髪に、ゆったりとした男みたいにそっけない格好をしている。男言葉で話すのは子供のときからだが、冷たく乱暴な印象を与えるので都合がいい。それでこの孤独な仕事。少なくともこの仕事を始めてからは男に言い寄られたことは一度もない。いちいち断るのも面倒だから助かる。中には信じられないくらいしつこい男もいるしな。護身術は完璧だから客の少ない店番も心配ない。
 ひとりで寂しいなどとは思わない。もともと物静かで無口、マイペース。元来ひとりが好きな性格だし、寂しいなんて気持ちは一旦捨ててしまえば後が楽だ。だいたい日々の悩みなんてものは、その大部分は対人関係から生じている。ひとりでいれば悩むこともなく、毎日とても穏やかだ。朝はゆっくり新聞を読み、日中は暇な店番、夜はDVD鑑賞。それで結構楽しく気楽に過ごせるし、十分満足だ。退屈することもない。
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