パラレル飛躯二次創作A

□激苦グレープフルーツ
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「飛影、待ったか?」
 朝、まぶしい笑顔で向かいの家から出てきたのは、男みたいに短い髪に男言葉の、少々風変わりな俺の幼馴染。もし制服を着ていなかったら男と間違えられそうだ。
「いや、全く。」
 実は10分待ったが、それくらいは何でもない。
「良かった。じゃ、行こう。」
 ふたりで並んで登校する。俺は背が低いからあいつのほうが僅かに俺より高い。俺達はもともと口数が少ないから、会話が弾むわけではない。だけど一緒にいられるだけで俺には十分すぎた。人生にこれ以上の幸せがあるだろうか?

「今日の英語の宿題、出来たか?見せてやろうか?」
 教室で躯に言われて俺は首を振る。
「いや、自分で何とかなったからいい。」 
 躯と俺は今中学で同じクラスだ。1年、2年と違うクラスだったから、俺は2年間ずっとひどく寂しかった。クラス発表がある度に随分落ち込んでいたものだ。あいつと同じクラスになった男どもを、心の中で全員呪い殺した。3年になってやっと同じクラスになれて、気が狂いそうに嬉しかった。
「そっか、頑張ったな。」
 躯は軽く微笑んで、自分の席に戻って行った。あいつは俺と違ってとんでもなく頭が良く、スポーツ万能、何でも器用にこなす優等生だ。しかも振り向かない者はいない究極美少女ときてる。なんで俺はこんなのと幼馴染なんだろう。いや、自分が恵まれた立場にいるのはわかっている、男はみな俺を猛烈に羨む。だけど俺としては悩みが多すぎて、正直しんどい。せめてあいつがもっと馬鹿だったら、もっとブスだったら、そして俺の背がもっと高かったら。
 躯に言われた英語の宿題を開いてため息をつく。昨晩遅くまでかかって仕上げた宿題。だが正解率はおそらく相当低いだろう・・・仕方ない、やるだけやったんだ。何でも一瞬で記憶し、理解し、マスターする天才肌の躯。それにひきかえ俺ときたら、物覚えはクソ悪い、せっかく覚えても翌日にはほぼ全部忘れる、理解に人一倍時間がかかる、理解はしても実践できない・・・要するに馬鹿だった。だけど俺は辛抱強く、昔から毎日の勉強を欠かさない。ひとえに躯に少しでも追いつきたいの一念だったが、能力差というのは残酷なもので、俺と躯の差は年々開いていくばかりだった。中3最初のテスト、あいつは学年トップ、俺はちょうど真ん中。テスト2週間前からの猛勉強に関わらず、だ。
 いくら努力しても馬鹿は馬鹿なんだと虚しくもなるが、あいつの顔を見るとまた頑張ろうと思える俺は、やっぱりどうしようもなく馬鹿だった。
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