パラレル飛躯二次創作A

□ほら吹き女
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 長年無趣味だった俺だが、社会人になったのを機に重い腰を上げ、釣りを始めた。ひとりで出来て、静かにゆっくり楽しめる、本当にいい趣味だ。いつも週末は遠出してひとりで釣りに出かける。
 なにしろ正真正銘の初心者なのでわからないことだらけで、本を何冊か買ってはみたものの、それでもよくわからない。さてどうしようかと考えあぐねた末、遅ればせながら思い切ってパソコンを買い、慣れないインターネットで調べることにした。こういうパソコンとかインターネットとかメールとか、俺はさっぱりわからないし全く興味がない。だがたまには時代の恩恵にあずかるのも悪くはないだろう。
 いろいろ調べていくうちに、あるホームページに突き当たった。初心者にもわかりやすく釣りに必要な知識が書かれていて、非常に詳しくかつ豊富な情報量だ。このホームページを作った佐藤健太郎という男は大した奴だ、とても参考になった。
 佐藤氏はブログというものに日記も書いていたので覗いてみた。40歳の穏やかな人柄で、インド人の妻をもらってインド料理屋をやっているらしい。もう大きな子供が5人もいる。さすがに本人や家族の写真は載っていなかったが、内容から察するに賑やかで楽しい日々を送っているようだ。
 おかげで大変勉強になったものの、自分の理解力の低さが悪いのか、まだ幾つかの疑問点が残った。それで生まれて初めてメールというものを書いて佐藤氏に送ってみた。なにしろ18歳も年上の男なので、言葉にはよく気を遣い、失礼のないように書いたつもりだ。
「佐藤健太郎様
 初めまして。最近釣りを始めたばかりの者です。佐藤様のホームページを拝見させて頂きながら、知識・経験がないなりに奮闘している最中です。
 インド料理店の経営に子育てに、お忙しい中大変申し訳ございませんが、質問させて頂きたいことがあり失礼とは思いながらメールさせて頂きました。・・・・」
 以上は専門的な事柄になるので省略する。質問が多かったので長くなってしまい、佐藤氏の迷惑になってしまったのではないかと心配していた。
 驚いたことに早くも翌日に返事が来た。
「飛影様
 メールありがとうございました。つまらないホームページですがささやかながらお役に立っているようでとても嬉しく思います。・・・・」
 丁重な文章に好感を持った。俺のような若造にありがたいことだ、俺が見込んだ通り佐藤氏は立派な人柄の人物らしい。質問にも懇切丁寧にわかりやすく回答してもらい助かった。しかしその後に続く文章に俺は首をかしげた。
「長年釣りをやってきましたが、いつもひとりで出かけているので寂しく思っています。良かったらぜひ私と一緒に釣りに行きませんか。お返事お待ちしています。 佐藤健太郎」
 ・・・初対面の、しかもメールだけで顔も知らない相手をいきなり釣りに誘うなど、俺にはちょっと信じられなかった。インターネットなんかをやってる人間というのは皆こういうものなのか。見知らぬ相手をすぐに信用して、軽率だ、物騒だとは思わないのだろうか。俺にはとてもじゃないが理解できない、丁重に断った。
「佐藤健太郎様
 親切なお返事ありがとうございます。とても助かりました。
 せっかく釣りに誘って頂いたのですが、あいにく私はひとりで気ままに釣りをするのが好きなのです。申し訳ございません。 飛影」
 嘘は言っていない。ただ少し簡潔すぎ、乱暴すぎただろうか、佐藤氏は気を悪くするかもしれない。
 翌日、またもやすぐに返事が来た。
「飛影様
 お役に立ててなによりです。ひとりで釣りに行くのが好きというお返事でしたが、私は釣りに関して知らないことはないと自負しております。必ずあなたのお役に立つと思います。決して邪魔はしませんので、ぜひお受けして頂けませんでしょうか。私は釣り仲間がどうしても欲しいのです。どうかよろしくお願いします。あなたのメールを拝見してお人柄に大変好感を持ちました。 佐藤健太郎」
 ・・・ここまで言われちゃ断れない。俺の何が気に入ったのか、ホームページやブログの印象と違い、意外と強引な野郎だ。
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