パラレル飛躯二次創作A

□マゾヒスト
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 早いもので今春、俺もとうとう大学生になった。進学のため上京したのはいいが、親が仕送りをしない主義なので、一刻も早くアルバイトを探さなければならない。なにしろ初めてのバイトだ、自分に向いているものがわからない。慎重に選ぶ必要がある。さて、どれにしたらいいだろうか。初めて買ったアルバイト情報誌を前に俺は考え込んでいた。
 他人のガキの面倒をみるなんて真っ平御免だから、家庭教師や塾の類はダメだ。時給がいいのには惹かれるが、向いているとはどうにも思えない。パチンコ店も大変時給がいいが、あいにく住んでいるアパートの近くにない。家から遠いのは避けたい、いちいち行き来するのが面倒だ。
 あれこれ悩みながらページを繰っていると、近所のコンビニエンスストアの募集広告が目に飛び込んだ。これがいいかもしれない。俺の部屋からはたったの徒歩5分。楽だ。仕事も簡単そうだし、接客業とはいえコンビニの店員くらいなら、無愛想な俺でも務まりそうな気がする。
 俺は緊張しながら急いで電話をかけ、無事に明日の面接の予約をとりつけた。

 次の日、約束の時間ぴったりに、苦労して初めて書いた履歴書を抱えコンビニに向かった。ちょうど夕方前の暇な時間帯だったからか、ガランとした店内には客がひとりもいなかった。中に入ると、髪の短い女がレジのカウンターでかったるそうに頬杖をついていた。俺が近づいて、こういうとき何と言ったらいいのかわからず躊躇していると、向こうから声をかけてきた。
「お前、面接か?」
 冷たい表情を崩さないまま、落ち着いた声にぶっきらぼうな口調で尋ねられた。俺はビクリとして答えた。
「ああ。」
 正面から見ると、非常に綺麗な女だった。いや、本当に今まで見たことないような、素晴らしくいい女だった。小柄だが芸能人かなにかのように、人目を引く強烈な磁力、あるいはオーラといえるものをまとっている。気高く整った顔立ちは、なんともいえない色気と憂いがあって大人びていた。なのに不思議とどこか可愛らしく、守ってやりたいなどと男に思わせてしまうズルい体質だ。俺と同い年と言ってもおかしくないほど若く見えるが、多分少し年上なんだろう、物腰にやけに威厳があった。
 ただ、この女、外見は最高だが、どう見ても性格が悪い。冷たいくらいに涼しい眼差しで見下したように俺をギロリと値踏みしている。俺の返事を聞いた女は、ふんと鼻を鳴らして傲慢な態度で高飛車に言い放った。
「さっさと奥に入ったらどうだ?店長が待ってるぜ。」
 女の美貌と喧嘩腰の高圧的な口調に圧倒されてしまい、俺は慌てて控え室の扉をノックした。
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