パラレル飛躯二次創作A

□あべこべ
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 魔界全土をひた走る、グロテスクな外見の巨大な移動要塞、百足。初めてそれを目にした小さな少女、躯は、驚きに言葉を失い口をボカンと開けて見上げていた。生まれてからつい先日まで7年間ずっと奴隷商人の屋敷に閉じ込められていた彼女には広い世間の何もかもが珍しかったが、これにはとりわけ度肝を抜かれた。
「まるで大きな虫みたいだ・・・。」
 長く美しい髪を風にたなびかせ躯が呟くと、隣で彼女の手を引いていた小柄な色っぽい年増女がにっこり笑った。
「すごいでしょ?実際この子、魔界でいちばん大きな本物の生きてる虫なのよ。でもね、ここ魔界にはこれよりもっともっとビックリするようなことがたっくさんあるの。あなたもこれからそれらを次々と目にすることになるわ。楽しみにしてて。」
 それを聞いて、躯は嬉しそうにこくりと頷いた。呪われた運命によって壮絶な修羅場を経験し、幾多の死線をくぐり抜けてきたとはいえ、彼女はまだたったの7歳。初めて目にする新しいもの、珍しいものに心からワクワクしていた。
 奇妙な虫の腹部にある小さな入り口にたどり着くと、ふたりはゆっくりと百足の中へ入っていった。

 外見のインパクト以上に百足の内部は複雑でユニーク、そして不気味だった。どこまでも続く曲がりくねったほの暗い廊下も、扉の向こうに見えるいくつもの歪んだ部屋も、天井・床・壁、すべて生々しい虫の皮膚や内臓で出来ている。巨大な虫のでこぼこと隆起した内壁に囲まれた迷路はおどろおどろしい雰囲気を湛えていたが、幼い躯には遊園地や動物園のような楽しさがあった。
「すごいな。ここは本当に虫の体の中だ。」
 躯が驚嘆の声をあげると孤光は得意そうに言った。
「ええ、だけど部屋は無数にあるしどれも居心地よくしつらえてあるの。大したもんでしょ?」
 間もなくふたりはこの移動要塞の主の部屋にたどり着いた。重厚で立派な大きな扉に魔界の実力者の権威が漂う。躯は自然と緊張した。
「大丈夫よ。歓迎してもらえるかはわからないけど、必ずなんとかなるわ。と言うより私がなんとかするんだけどね。」
 孤光はいたずらっぽく目配せした。
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